天下の小孩子
「我が先は呉の太伯の一族で、その国が滅びた時、百姓を率いて海に入り、舟を
ここの所を書く時、張政には躊躇が有った。かつて周の
「……かつて
時に魏が漢の禄を継いだ事を聞きましたが、
読み終えて張政は、背筋から何か重苦しい物が少しだけ抜けるのを覚えた。文書は封筒に収め、机の上に置く。するとそれを取り次ぎの官吏が取って、階段を昇って行く。
「陛下より、倭人たちに御言葉を賜わる」
仲達は、その太い骨と高い背に相応しく、重々しい声で詔書を読み上げる。
「親魏倭王
今、
仲達が読み上げるのに合わせて、子上の指示で、兵士たちが匣に掛けられた絹を払い、蓋を外す。匣の中から、天子より姫氏王に賜わる品々が披露される。特に人々の目を驚かせたのは、百枚の銅鏡であった。今この魏の領土では、銅材が極度に不足している。それは主な銅山を孫権に押さえられてしまったからであった。しかも帝室が所有する銅器は、明帝が宮殿を飾る為にほとんど溶かしてしまった後なのである。この百枚の銅鏡は、司馬氏の私財から出た物に違いないと思われた。心なしか玉座の左に控える
これまた取り次ぎの手を経て、難斗米と都市牛利に詔書や銀印が授けられる。
「陛下より手ずから御酒を賜わる」
仲達が
「近う」
とまだ眠そうな声を出す。張政と
「もそっと」
と皇帝が曰まう。また三分の一を登って控えさせる。
「もそっと、近う」
という繰り返しをして、やっと最上段に進む。これも儀礼である。女官が難斗米と都市牛利に盃を持たせる。張政と梯儁は二人の背を押して、玉座の前に跪かせる。幼い皇帝は、袞衣を纏い、頭には重そうに冕冠を載せている。袞衣と冕冠は、天子だけが着ける事を許される。従ってそれは張政には滅多に見られない。張政はそれをよく看ておきたかった。袞衣は成長を見込んで大きめに作られているらしく、ぶかぶかとしている。皇帝は銚子を執って二人に酒を賜わる。他の者には女官から盃が運ばれる。皇帝も一杯の甘い匂いのする飲み物を取る。
所が何とした事か、乾杯の音頭も待たずに、皇帝がごくごくと一気飲みを始めてしまった。仲達も慌てて盃を捧げるしぐさだけをし、一献を飲み干す。他の者もそれに倣う。
(ただの
と張政は秘かに思った。それが天子にして皇帝と呼ばれる人の正体であった。
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