黄土を蹠む
遼東郡から
幽州刺史の
仲恭は早速歓迎の宴席を張り、幽州の高官たちが顔を揃える。子上はここにも倭人たちを連れ出して、自分の功績として注目を誘う。すると芋蔓式に張政と梯儁も出席する事となる。張政も梯儁も、今までこんな高級な宴会に加わった事が無い。料理は割り合い高価な食材が多く、酒も良い物が用意されている。しかし料理の方法は庶民の食事と大した違いは無く、さほど上質に出来てもいない。ただその量だけが馬鹿に多く、出席した人数と比べて明らかに多過ぎる。わざと余らせておいて無駄にするのが、身分の貴さを証明する最高の贅沢なのである。裏では下役たちが棄てられる料理の御相伴に与ろうと待っている。外には匂いを嗅ぎつけた乞食も寄って来ているのだろう、と張政は思う。
十日ほどの休息の後、薊城を去り、
「長いこと歩いたが、ちっとも潮の気がしてこない」
と難斗米が言う。倭人たちは島育ちだから、海を背にして歩いてもすぐ反対側の海に着くという感覚を
「この
「まだ今まで歩いてきたくらいは先がありそうではないか」
難斗米と都市牛利は車の上でそんな
「ここまで来れば、中国に還ったという気がする」
と誰かが言った。確かにこの辺りは昔の
温県の宿で過ごす間、張政にはやっておかなければならない仕事が有った。外夷の首長が天子に通好を求める場合、上表文という物を用意しなければならない。これは受付方の役人が代筆するのが普通で、内容は型通りにしつつ
「臣政が申し上げる」
という風に書いて、
「倭の君長某が
とでも書くはずだが、ここに問題が有った。実は誰も姫氏王の本名を知らないのである。
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