襄平市場の煮餅
どうやら、明帝の危篤と崩御、幼い新帝の即位による新体制作りの為に、色々な事務が滞っているらしく思われた。景初三年正月の朝見という可能性が消えれば、次は秋の請見の儀式か、或いは来年の朝見の儀式が目標となる。出発は早くても暖気が入り始める頃まで遅れそうであった。張政はその事を難斗米たちに言い聞かせた。倭人たちは別に平気そうであって、却って梯儁の方が待ちくたびれるという顔をした。
張政たちは、襄平に居ても別にする事が無いので、よく市場の様子を見に出掛ける。粟や黍は昨年の戦役の影響で不足している。その代わりに市場には
市場に集う人々は、必要な物を持ち帰るだけでは済ませず、買い食いをしながら世間話をしたり、講釈師の噺を聞く事を娯楽としている。この頃の講釈の種は、司馬仲達が如何にして
「兵法には大事なことが五つあるのだぞ。勝てるならば戦い、勝てねば守り、守れもせずば逃げる。さもなくば降伏するか死ぬだけのことよ。淵めは勝ち目もないのに戦い、早くに降伏もせんかったからには、死ぬ覚悟がなくてはなるまい。何の用で使者などよこすのだ」
司馬仲達がそう言った、と講釈師は語る。見て来た様に物を云うが、本当かどうかは分からない。淵は子の
噺を聞きながら聴衆の多くは、仲達の応援に回っていた。或いはこんな噂をする声も聞こえた。仲達が攻め込むよりも前、公孫家では度々奇怪な事が有った。犬が富貴な人の様に
「形が有って成り足らず、姿が有って声は無い。これは国が滅亡する兆しですぞ」
と解いた。要するに、公孫氏は所詮正統の君主に非ず、滅び去る運命だったのだ、という事を、人々は色々の表現で言ったり聞いたりしている。こんな事は
暖かくなって、秋播きの麦が獲れる時季が到ると、襄平の市場には
煮餅の汁の香りが立ち始めた頃、景初三年五月、張政と梯儁はやっと司馬子上から一つの命令を受け取った。近い内に上洛の沙汰が有るから、
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