五千里への一歩
湊に一団の舟が向かって来る。倭人の作る舟は、
難斗米と都市牛利が岸に上がって、張政や梯儁と一通りの挨拶を交わす。張政は、
「あのことは、
と伝える。と謂うのは、公孫脩を確保したという第一報とともに、難斗米と都市牛利から張政に一つの申し出が有った事についてである。それは、
「ひめわうより、罪人どもは我ら二人が
というのであった。罪人の引き渡しに
「
という劉太守の指示を張政たちが受けたのは、それから六日後の事だった。遼東郡には、帰還する
張政と梯儁、難斗米と都市牛利、公孫脩ら囚人、護衛、水夫、その他の用を弁ずる者たちは、一団の舟に乗り込んで、帯水から西海に出て北を指した。
襄平城に入った張政たちは、早速司馬子上に引見され、囚人たちも検めを受ける。
「あれは確かに公孫脩でしょうか」
と梯儁は訊いた。
「ああ、そうだな――」
と子上は何か含みの存る言い方をする。ある種の政治家がする、皮膚の下で筋肉を蠢かせる様な表情を張政は看た。
「――いや、脩めの首はな、もう
と子上は言った。
「は、しかし――」
あの男は人相書きとそっくりではないか、と言いかけた梯儁を遮って、子上が続ける。
「いや、もう送ってしまったのだな。あの男は己が公孫氏の跡継ぎだと思い込んでいる哀れな狂人に違いない。こちらで引き取ろう。しかし
子上はそう言って、大儀であった、と付け加えると、さっさと奥へ引っ込んでしまった。張政たちは宿に下がるしかなかった。張政は、政治的事情という物を呑み込んだ。梯儁としては、どうやら洛陽へは行けるという事で、脩の事は気にしないという顔をした。難斗米と都市牛利も、君命を果たせるだろうという見通しを得て安堵していた。
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