公孫脩を追え
「それで、ここからその東南の大海とやらに至る水路についてだが」
と
「今、
どうやらこれが一番聞きたい事であったらしい。
「慣れた船乗りでなければいけません」
「我々の往来には
張政が補足する。
梯儁は、これがどんな事件で、罪人とは何者であるのか、を知りたくてうずうずしている。ひょっとしたら、大きな手柄を立てる、滅多に無い好機かもしれない。事によったら
「……
二人は顔を見合わせるよりも喉に空気を吸いかけた。その名前はもちろん知っている。公孫脩は、つい先日までこの土地を支配していた公孫
「それが、脩については間違いだったらしいのだ。本物の脩は、舟を浮かべて南へ逃げたということだ。それで未明に急使が来た。今頃どこに居るか、或いはもう韓地に入ったかも知れない。この辺りの海岸には兵士どもを張らせているが……」
と説明する劉太守を遮って、梯儁はようやく口元の筋肉に物を言わせた。
「
もし公孫脩が南へ入ったら消息くらいは屹度すぐに分かります、こんな時の為にこそ普段から彼らの世話をしてやっているのですから、と強調する梯儁を張政はやや困った気持ちで見守っている。そんなにまで言って捕まらなかったら、寧ろ咎めを受ける事に成りはしないだろうか。劉太守は黄紙を広げて硯と筆を机の上に出した。
「今、令状を取らせる」
筆が走るのを見ながら梯儁は、
(良い紙だなあ)
と思う。確かにそれは高そうな紙である。命令を書き終えると、劉太守は青い
「公孫脩の追捕につき、韓地以南の捜索を任せる」
という令状を受け取った。これを示せば、太守の名に於いて、必要な人員や費用を上司に請求する事が出来る。
「人相書きは追って届けさせるであろう」
と言って、劉昕は二人を送り出した。
さて張政が倭、梯儁が韓、というのが平生からの分担なので、手分けは自然に決まる。帯方の
「いつも世話になっている
と難斗米は言ってくれる。
「おう、そんならおれたちもすぐに行こう」
と都市牛利が応じた。なまじい損得勘定をする事に慣れた漢人とは違って、素朴な倭人は話しが早い。出来る事はやると直ちに決めてくれる。それだけに見返りも疎かには出来ない、と張政は考える。もし成果が有った時には、この倭人たちの為に、それなりの報酬を劉太守から引き出さなければ成るまい。
「韓の奥地にでも入ると厄介だが、なぁに海沿いなら、怪しい舟がうろついていれば、おれたちで気付かないわけはないのだ」
と都市牛利が言う。韓地でも
「早舟をやって、ひめわうのお耳にも入れてみよう。もし
と難斗米は提案した。それがいい、と都市牛利も同意する。ひめわうと云うのは、難斗米たちの主君にして、倭の邪馬臺国の王、倭人諸国の盟主でもある。自ら呉の太伯の
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