反省
数時間後。アシュ一行はセザール王国の政庁に到着した。ナルシャ国とは桁違いに大きな建物に、全員があんぐりと見上げる。
「ふぅ、田舎者めいた顔をして。さっさと歩く」
「「「「「「「はーい!」」」」」」」
まるで、奴隷商人かのように。セザール王国の生徒たちを連行するイカレ教師一行。
そんな中、迎えに来たのは、ライオールだった。白髪の老人は、両手を縄で縛られながら連行されている子供たちを眺めながら、震え声で尋ねる。
「あ、あの……アシュ先生。いったい、なにを?」
「捕まえた」
「……っ」
国際問題。ライオールは引きつった笑顔を浮かべながらその文字を思い浮かべる。エステリーゼは、いつもの如く、泡を吹いて気絶した。
「彼らは、私の生徒であるリデール君をイジメていたと言うのでね。親、教師を交えて、しっかりと、納得のいく話し合いをしようと思ってきたんだ」
「……なるほど」
1つ1つの考えは理解できる。アシュは、その性悪から、圧倒的なイジメられっ子の過去を持つ。ナルシーのことを見て、少なからず共感の念を持ち、なんとかしようと動いたのだろう。
まともだ。
ただ、行動の1つ1つがイカれているだけで。
それから間もなくして。リデールが全力で走ってきた。
「はぁ……はぁ……ナルシー」
なんとも言えない表情で。父親が娘を見る。
「手紙を読んだ。なんで、言ってくれなかった?」
「……」
黒髪美少女は哀しそうな表情を浮かべる。
「子どもが親に言うことは、物凄くハードルが高いのだよ。その親が好きであればあるほどね」
「……アシュ=ダール」
「それだけデリケートなんだ。子どもの心というのはね」
白髪の魔法使いは、泣きそうな表情の黒髪美少女の頭をなでる。
そんな中。
息をきらしながら、全力中の全力で1人の父親が走ってきた。その男は、カストロと言う生徒の元まで辿り着いた。
「はぁ……はぁ……ぜはぁ……ぜはっ……か、カストロっ」
「あっ、お父様! その……嘘ですよね? あのリデール大臣の娘がナルシーなんて――」
「貴様ぁ――――――――!? なにをしたのか、本気でわかってるのか―――――――――――!」
「ひぶっ!?」
『お父様』と呼ばれた貴族はカストロをぶん殴り。倒れたところに、マウントを取って、更にボコボコにぶん殴る。
「ひだぁい!? お、お父様ぁう! あうあうう゛っ」
「貴様貴様貴様貴様! こともあろうに、リデール大臣のご令嬢を! 私の上官の上官の上官の上官の上官の上官の筆頭大臣だぞ!? 一言口にしただけで、指一本で、いや、むしろ髪の毛一本で、私のクビなど簡単に飛ぶのだぞ!? それを、貴様っ……貴様ーーーーーーーーーーー!?」
「ひびっ……ごめー……ごめーーなさいひっ……ひぶっ……ぐほっ……ごぼっ……」
「「「「「ひっ……」」」」」
拳に血が滴るほど、異常にぶん殴られ続ける様子に。セザール王国の生徒たちが、やっと事態を把握した。
カストロは取り巻きの中でも一番格上の貴族だ。自分たちが、いかに格下の末端であったのかを、彼らは思い知った。
それから、次々と貴族の親たちが走ってきて、同じように生徒たちをぶん殴り始める。
「アンバー! 貴様っ、殺されたいかぁ!」「ひっ、ごめんなさいお父様ー!」「勘当だ! マンナ、貴様など金輪際帰ってこなくていい!」「うわーん! ごめんなさいごめんなさいー」「死ねー! ジナラ! 謝罪の気持ちを持ってこの場で自害しろー!」「命だけはー! 申し訳ありませーん!」
マウントを取って、有無を言わさずボッコボコ。
ボッコボコである。
やがて。
気絶するまで息子をぶん殴ったカストロの父親は、全力の土下座をリデールにかます。
「はぁ……はぁ……申し訳ありません。どうやら、仕事にかまけて、しつけを疎かにしていたようです」
「……」
リデールは憮然とした表情を浮かべる。
「本来は死罪に当たるほどの行為……何卒、ご勘弁を」
「……反省していると?」
「もちろんです! このバカ息子には、言い聞かせます」
そう言って。地に額をつけながら涙を流す。他の生徒の親たちも、次々と土下座をして涙ながらに謝罪の言葉を述べる。
「……あなた方も反省していると言うのだな?」
「も、も、もちろんです! 本来なら万死に値しますが、何卒お許しを」
「ふぅ……断っておくが、私は職権を濫用して、君たちに沙汰を下す気はない」
「そ、それじゃ……」
「しかし、娘の父親として。同じ親として。2度とこのような事が起きないよう対処してもらいたい」
「そ、それはもちろんでございます!」
カストロの父親は額に地面を擦り付けながら答える。そんな様子を眺めながら。ライオールが、アシュに向かって微笑む。
「ふぅ……これで、一件落着ですな」
「……そうかな?」
「と言うと?」
「彼らは罰するのを逃れるために、許して欲しいのではないかな?」
「そ、それは、まあ、そうでしょうが」
「それが、本当の反省と言えるのかな?」
「……」
「……あの、この御仁は?」
カストロの父親が忌々しそうな表情をアシュに対して向ける。
「私の客人だ。ナルシャ国の教師アシュ=ダールという」
「……なるほど」
「彼が、教師として君たちの子どもの素行を知らせてくれたんだ」
「……っ、なる……ほど」
余計なことしやがってーーと言う心の声が聞こえた。
「さっきから聞いてると、本当に反省してるのか、よくわからなかったな」
「し、してますよ! 自らの命を絶つほどの覚悟です! リデール大臣さえ、よろしければ」
カストロの父親は、しっかりと、そう言い切った。しかし、リデールは即座に首を横に張る。
「バカなことを」
そう答えた途端、親たちに安堵の表情が浮かぶ。
「うーん。しかし、そこまで言うなら、死罪にしては?」
!?
アシュは、カストロの瞳を覗き込みながら、提案する。
「罪悪感じている者に、罪を与えないことは、辛いものだよ。それに、『自らのせいで肉親を死なせてしまった罪』を背負わせることが、子どもたちの更生の第一歩だと、僕は思うがね」
「……っ」
全員が驚愕の表情を浮かべる。
「はぁ……バカなことを。そんな、法律などない」
「……なるほど、法律の問題か」
「なら、我々で対処可能だね。なら、ミラ、彼らを殺しなさい。方法については、これから議論しようか」
「はい。かしこまりました」
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