捕縛


 カストロを始め、セザール王国の生徒たちは困惑していた。突然現れた白髪の男。それだけでなく、突如として、『両親を連れてくる』という発言。


 それはそれで困ってしまうイジメ首謀者のカストロは、必死にアシュを凄んで叫ぶ。


「ふざけんな! お、親ってどう言うことだ!?」

「子どもは子ども同士で話し合う。と言うことは、すなわち、親は親同士と言うことだろう?」

「……っ」


 もちろん、生徒の凄みなどミジンコ並みにも気にしない、空気読み皆無魔法使い。イジメっ子の彼らも、イジメられっ子のナルシーも気にすることなく、執事の方に向かって話を進める。


「ミラ、最速でどのくらいで集められる?」

「最速でしたら、我々が政庁へ向かった方がよろしいでしょう。その間、リデール大臣に招集をかけるよう依頼しておきます」

「り、リデール大臣!? はっ! バカも休み休み言え! なんで、このセザール王国の筆頭大臣がお前らの言うことなんて聞くんだ!」

「なんだ、知らないのかね? 彼はナルシー君の父親だよ」


!?


 瞬間、生徒たちがザワつき出す。


「う、嘘だ嘘だ! そんな話、聞いたことないぞ!?」

「なんだ、言ってないのかね?」

「……」


 アシュがナルシーに尋ねるが、黒髪美少女は黙ったままうつむく。


「……まあ、いい。離婚したとは言え、血縁上は娘であるので、権利は十分にあると思うがね。もちろん、彼女の母親も呼ぶが」

「せ、先生! でも!」

「大丈夫だよ、ナルシー君。かく言う僕も、希代の天才性と端正過ぎる容姿で、よくイジメられたものだ。だから、この手の話には理解のある紳士だ」

「……不思議ですね。アシュ様とナルシー様のケースで言うと、銀河系ほどかけ離れているように感じるのですが」

「ふっ」


 ミラの皮肉をまるっきり、これっきりスルーして、アシュは次の思考へと移ろう。


「っと。教育の観点で責任のあるのは我々教師も同じだな。一応、この学校の教師も呼んでくれ」

「彼らの学校の校長はどうしますか?」

「ふむ……まあ、ちょうどライオールもいることだし、一応、呼ばせておくか」

「せ、先生! でも……」

「安心したまえ、ナルシー君。かつて、僕の師匠であったヘーゼン先生は、一言弱音でも吐こうものなら、マウントを取って数時間ボゴボコにぶん殴ってきたが、僕はそう言うのは教育じゃないと思っている」

「まあ、あなたのようなモンスターを生み出してしまったのですから、それは、そうかもしれませんね」


 ミラが淡々と分析する。


「僕はあの異常教師とは違う。あくまで、対話。暴力が支配する時代は、あの人の死と同時に終わった。あくまで、当人同士、親同士、教師同士が話合うことで問題を解決すべきだと思っている」

「一度として、対話で解決したことがないと言う圧倒的な事実は置いておいて、その姿勢はご立派かと」

「ふっ……では、行こうか」

「……かしこまりました。こちらへ」


 鋭いナイフで抉るような指摘を華麗にスルーするアシュに対し、『シネバイイノニ』と思いながら、ミラは馬車へと先導して行く。


「お、俺たち行かないぞ! だ、だ、誰が、お、お、お前らの言うことなんて」

「リリー君、シス君。彼らを捕縛できるかい?」

「彼以外はもうしてます!」

「です!」

「……っ」


 金髪美少女と青髪美少女は、すでにカストロ以外の生徒たちを光の縄で縛り、気絶させていた。


「さすがは僕の生徒だね。えっと……ミスコビッチ君だったかな?」

「いえ。カストロ様でございます」

「ふむ……なかなかいい名前ではあるが、こちらの方がしっくりとくるな。親に提案しておこう。では、行こうか」


 闇魔法使いはそうつぶやいて、颯爽と馬車へと向かう。その間、見えない光の縄で縛られたカストロを、シスが引きずり、リリーが気絶した生徒たちを魔法で運ぶ。


「はっ……くっ……は、離せ!」

「……覚悟してくださいね。私の友達をイジメる人なんて、許しませんから」


 シスは、カストロに向かって、断言した。

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