罵詈雑言
カストロと呼ばれた生徒の元に、次々と他校の制服を着た生徒が集まってきた。そんな中、ナルシーは、怯えた様子で下を向く。
「あっ、本当だ! なんで負け犬のこいつが、なんでこんな所に? 逃げたんじゃなかったっけ!?」「そうそう、なんで泣き虫ナルシーがここに?」「キャハハ、そんなこと言ってると、また泣いちゃうよー」「あはは。いいんじゃね、別に?」
生徒たちが、ナルシーを取り囲んで口々に罵倒する。そして、それまで、ワイワイ楽しんでいた特別クラスの生徒たちが何事かと戸惑いを見せる。
「な、なにナルシー? この失礼な輩は?」
「……」
リリーが遠くから声をかけるが、黒髪美少女は下を向いて黙っている。そんな中、シスがカストロに声をかけた。
「あの……私たち、ナルシーと同じクラスの生徒たちなんですけど」
「……どこの国? セザール王国じゃないよな」
カストロは青髪美少女の身体を撫でるように見ながら尋ねる。
「ナルシャ国です」
「ぷっ……ああ、あの小国か。なんだ、お前。あんな所にいたの?」
「……その……うん」
ナルシーはボソボソと口にする。
「もしかして、負け犬になったから敵国に降ったのか? マジかよ」
「……」
カストロがそうはやし立てると、ドッと生徒たちが笑い出す。
「そうだよ。お前が選ばれてたら、絶対に勝ってたのに」「本当になんでこんなヤツが。コネかな?」「キャハハ、なんのコネよ? こいつ、片親よ? し・か・も、母親」「可愛そうー、親が。離婚したの、背信主義者の子が生まれたからじゃね?」
口々飛び交う罵詈雑言に、金髪美少女が即座に反応する。
「ちょっと! あんたたちっ」
「やめて! いいから……」
「で、でも、こいつら」
リリーが激高しながら近づこうとするが、ナルシーが大声で制止する。
「ったく。こんな根暗の背信主義者を代表に選ぶなんて、セザール王国上層部も見る目ないよなぁ。なにをとち狂って、聖魔法の使えない背信主義者なんてメンバーに入れたんだか」
忌々しげに、カストロが吐き捨てる。
「……くない」
ナルシーが震えながらボソッとつぶやく。
「あ? なんだって?」
カストロは口答えされたこと自体に不快感を表す。
「……」
「ナルシー、いいんだよ? 言いたいこと言っても」
シスが、いつの間にか隣にいてギュッと手を握る。しかし、その手は冷たくて、あまりにも白かった。思わずその顔を見ると、極度の緊張状態であることが覗える。
「はっ! やっぱり、背信主義者ってのは、無能なんだな」
「……」
その時、特別クラスの生徒たちがアシュとミラを連れてきた。
「まったく……なんだね? もう、あと2秒で女性をめくるめくロマンティックなデートに誘えたというのに」
「アシュ様の頬が、あまりに事態を物語り過ぎているので、その話の真実味は皆無かと思われますが」
「フッ……」
くっきりと手形の痕を残したエロナンパ下手魔法使いは、なぜかシニカルな微笑みを浮かべる。
「先生……こいつら、消し飛ばしていい?」
リリーは、今にも聖闇魔法をぶっ放しそうな形相している。
「はぁ、これだから野蛮人は。すぐに、暴力で解決しようとする」
「な……だって、あいつら――」
「言っただろう? 対話が重要だと」
「で、でも……」
「でもじゃない」
「まあ、僕も教師だ。見ていたまえ。お手本を見せよう。華麗に、優雅に、紳士的に解決するから」
そう言って、アシュはセザール王国の生徒たちの元へと駆け寄る。
「初めまして、この生徒たちの教師アシュ=ダールです」
「はっ! なんだ、お前ら! 自分たちじゃ勝てないからって、大人を連れてくるのか!?」
カストロが嘲るように吐き捨てる。
「……ふむ。一理あるね」
「あ、アシュ先生! でも、こいつら――」
「ふぅ……しかし、現実とは厳しいな。このように、生徒同士で対話をさせたら君たちのことを殺しかねない危険な野獣のような生徒がいる」
「ぐっ……」
噛みつくようなリリーの頭を押さえながら、アシュはフッとため息をつく。
「な、なんだよ! 俺たちはそんなもの怖くないぞ!」
「まあ、待ちたまえ。世の中、互いの意見の尊重が大事だ。だから、君たちの意見を、僕は聞き入れようと思う」
「……は?」
「君たちは確かに生徒で、大人ではない」
アシュはカストロたち生徒に背を向けてミラの方を向く。
「ミラ、彼らの両親を連れてきなさい」
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