スパルタ
その頃、シスたちは依然として迷宮をさ迷っていた。歩いても歩いても出口が見えない。最初は、大海原。次は大砂漠。そして、今度は迷宮。目まぐるしく変わっていく景色に、生徒たちは困惑を隠さなかった。
「でも……敵が襲ってこないね」
ミランダがあたりを見渡しながら口にする。
「もしかしたら、景色を変えるだけが限界なのかも」
「いや。私たちが下手に反撃しないように、ここに留め続けるのが目的なのかも」
「ナルシー君の推理が正解だな」
!?
突然、姿を現したのは、紛れもなくアシュ=ダールだった。しかも、豪奢な机で高級なティーカップで、優雅にお茶をしている形で、至極鬱陶しい姿で。
「彼女たちは、このように実体化させることも容易だ。しかし、反撃されればリスクは伴う。本来のターゲットではない君たちには行動不能にさせておくので十分だったのだろう」
「な、なんでアシュ先生がここに?」
「ああ、僕も君たちと同じような襲撃を受けてね。それを、いとも簡単に破ってみせ、彼女たちを肉体的にも精神的にも掌握したからだよ」
「す、すごい」
「ふっ……まあ、君たちもなかなか柔軟な精神力を持っていたから、ここまで持っていたと思うよ。超天才の僕には才能も柔軟性、センスも足元にも及ばなかっただけで」
「くっ……」
リリーは、いつものように反論はせずに、その場で歯を食いしばるに留まる。悔しいが、アシュの言う通り手も足もでなかった。自分がこれほど幻術になす術がないとは思わなかった。
「しかし、もう安心したまえ。僕がこの空間を支配したから、もう間もなくここから出られるよ?」
その答えを聞いた途端、生徒たちは一斉にへたり込んだ。さすがに精神的にも限界に来ていた。金髪美少女もまた安堵の表情を浮かべるが、アシュは満面の笑みを浮かべながら彼女の肩をポンと叩く。
「あっとリリー君。君は残りなさい」
!?
「な、なんで私だけ?」
「わからないかな。君だけは、幻術について対抗する術を持たなかった。仲間たちに頼りきって、正直見ていられなかったよ」
「くっ……で、でも魔法すら使えなくなって……」
「はぁ、呆れたな。君はそう思い込まされているのだよ。そんなことにすら気づかないなんて」
「思い……こまされている?」
「おっと、僕は史上最高に優しい教師なので、思わず助言してしまったな。さあ、行こうかみんな」
そう言ってアシュは促そうとするが、生徒たちは動こうとしない。
「どうしたのだね? 君たちは十分に及第点だったのだから、落第者を放って帰還する権利があるのだよ」
「……リリーを放ってはいけません」
シスは真っ直ぐな瞳で答える。
「そうですよ、私たちはリリーが残るなら、残ります」「なんとか、みんなでこの幻術を破ってみせます」「当然でしょう、一蓮托生です」
他の生徒たちも一丸となって、リリーを守ろうとする。そんな、生徒たちの美しい友情を、ボッチ魔法使いはまるで生ゴミを見るかのような視線を送る。
「まさか、そんな甘ったるい友情なんかで、ここにいることを選ぶと? 言っておくが、僕は落第者には厳しいよ? 我が師のヘーゼン先生には、『落第など怠惰な証拠。より、追い詰める必要があるな』と言われて、雪山に突き落とされた経験があるからね」
「「「「……」」」」
えっ、なにそれと生徒全員は思った。
「まあ、残りたいなら無理にとは言わないがね。ここからは、僕というターゲットから君たちに変えてもらって、精神が粉々になるくらいに酷使してもらおうかな」
「えっと……アシュ先生。じょ、冗談ですよね?」
生徒のダンがなんなら、一人だけ離脱したそうな表情を浮かべる。
「ふっ……まあ、僕は大陸一の
「「「「……」」」」
誰だよ、そんな腐ったこと言うやつ、と生徒全員は思った。
「まあ、君たちの覚悟は受け取った。仮に君たちの精神が壊死したら、その肉体は僕が有効活用させてもらうから、その点は安心してくれていい。じゃ」
最後に不吉すぎる一言を残して、アシュは姿を消した。
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