感覚


 リリー=シュバルツは呆然としていた。突然アシュが現れたこともそうだが、幻術をいとも簡単に破ってシルミ一族を制圧したという事実に。


 一方で、自分は魔法すら使えない。


「……」

「リリー、元気出してね。私たちもいるし、大丈夫だよ」


 シスが包み込むような笑顔で、金髪美少女を抱き寄せる。その柔らかい身体に、ほのかなフローラルな匂いに思わず甘えてしまいたくなる。


 でも。


「ありがと……でも、ごめんね」


 リリーの瞳には力が戻っていた。アシュ=ダールという教師は死ぬほど嫌な性格をしているが、やれない課題は出さない。ここは、リリー自身が突破しなければいけない壁なのだ。


 アシュは言った。魔法を使えないと思い込まされている、と。


 リリーはすぐさま、魔法が使えない理由を考える。

 アシュは言った。彼女たちシルミ一族は、この世界そのものを変える以外にもさまざまな幻術が使えると。


「ジスパ、今、どうやって魔法を使ってる?」

「えっ……別にいつもと同じだけど」

「ちょっと、やってみて」

「ええっ……と」


<<火の存在を 敵に 示せ>>ーー炎の矢ファイア・エンブレム


 ジスパがシールを描き、詠唱チャントをすると、炎が彼女の指から放たれる。


<<火の存在を 敵に 示せ>>ーー炎の矢ファイア・エンブレム


 まったく同じように、リリーはジスパの動きをトレースする。


<<火の存在を 敵に 示せ>>ーー炎の矢ファイア・エンブレム


「……」


 やはり、出ない。シールの動き自体は、誤っていない。最初は、ここが精神世界だからだと思った。しかし、それはおかしな話だ。

 世界そのものを変えたからと言って、世界そのもののことわりを不安定にさせることが、果たしてできるだろうか。


 同じ条件で同じ行動をした場合、結果は同じになる。それは、この世界に生きる者によって逃れられぬ不文律だ。たとえ精神世界と言えど、元となる世界をベースにする以上、理も同様になると言うのが自然である。


「リリー……なにを考えているの?

「……大まかに言えば、なにかトリックがあると思うの」


 そう言いながら、金髪美少女は脳内を高速で巡らし始める。さっきまでは、考えているようで、なにも考えられていなかった気がする。


 でも、今は。


 晴れやかな空のように思考がクリアだ。アシュ=ダールの出現によって……いや、その事象によって。あの人は自分にできるすべてが、他人にもできると思っている。


 ならば、自分は必ずそれに応えなければいけない。


<<火の存在を 敵に 示せ>>ーー炎の矢ファイア・エンブレム


 今度は感覚を変えて魔法を放ってみた。それでも、出ない。いや、考え方は間違えてない。世界がおかしいのではなく、リリー自身がおかしいと見るべきだ。


 


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 その時、リリーの手から魔法が放たれた。金髪美少女はこのあまりに簡単な手品に、歯を食いしばる。


「やられた……属性の感覚が真逆になってる」





【お知らせ】

こんにちは! はなです!

すいませんが、恒例の新作の宣伝を入れさせてください!


タイトル『しにコイ!?』

余命49日を宣告された少女と宣告をした死神とのラブストーリーになってます! 

メディアワークスの青春✖️泣けるコンテストにも応募してますので、ぜひぜひ読んでみてください!(自信ありです!)


https://kakuyomu.jp/works/1177354054894607915


こんな作者ですが、今後ともよろしくお願いします!




































 

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