助言


「はどわきゃ!」


 翌日。金髪美少女、リリー=シュバルツは超ハイテンションで跳ね起きた。周囲を見渡すと、誰もいない。


「ゆ……夢か」

「……どんな夢だったのか、非常に興味深いね」


 外から超ローテンションの声。その主は、焚き木に火をくべて、ポットで湯を沸かしているアシュだった。


「れ、レディの寝言を聞くなんて、紳士あるまじき行為」

「……レディは、突然狂ったように叫んで暴れて、僕ら全員を馬車から追い出さないと思うが」


 ぞろぞろと。


 特別クラスの生徒たちは、焚き木を集めながら、眠そうな顔を浮かべて集まってくる。


「悪いことは言わない。一刻も精神病院に行きたまえ。その最悪な寝相。治さないと後々、大変なことになるぞ」

「……ははっ。そんな大げさな」

「大げさじゃない」

「……っ」


 キッパリと。


 あと数秒で首を絞め殺されそうになったアシュは、言いきる。こんな時だけは、遠慮もデリカシーもなく、はっきりと言える彼を尊敬する特別クラス一同。

 夢遊病というレベルではない。むしろ、なにかに取り憑かれたような奇声。そして、どれだけ制止しようとしても、問答無用で暴れまくる。

 そんな光景を見せられれば、そう言いたくもなる。


「ああ、リリー。起きたの?」


 そんな中。もう一人の異常美少女、シス登場。

 昨日、彼女は、あっけらかんとリリーの関節を決めて動きを封じ、お手製の耳栓を装着して、[よくあるんですよー』とニコッと笑顔を浮かべた。


 もってくる焚き木が他の生徒たちの十倍を超えていることも、その異常性を垣間見せていた。

 アシュは、優しく優しく青髪美少女の頭を撫でて大きくため息をつく。


「ふぅ……シス。君がそうやって彼女のことを甘やかし続けていたから、立派な社会不適合者になってしまったじゃないか」

「しゃ、社会不適合者!? なーんて失礼なことを言うんですか!」


 アシュの指摘に猛烈反論を試みるリリーだったが。


「「「「「「……」」」」」


 た、確かにと、特別クラスの生徒たちは頷く。


「冗談だと思ってるのかい? ミラ、彼女を欲しいと希望する就職先は?」

「ありません」

「他の生徒たちは?」

「ほぼ、すべての国内機関、民間研究所から依頼が来てます」

「ほらね」

「ぐっ……ぐぐぐぐ」


 反論を圧倒的な物証で黙らせるアシュ。


「先日行われた国別魔法対抗戦。そして、サン・リザベス大聖堂殴り込み。誰も君みたいな、危険な人材を欲しがる物好きなどいない」

「な、なんで!? 私の有能なところを存分に発揮できてたはずじゃ……」

「……その感性が異常だと言うのだよ」


 この歳頃で中位悪魔を召喚できる人材など、誰が欲しいと思うのか。そう考えるとヘーゼン以来100年ぶりの麒麟児と言えなくもないのだが、そもそもヘーゼンなど誰も御しきれない。


 アシュでさえ持て余すほどの人材。


 史実では。中位悪魔と中位天使を手に入れたヘーゼン=ハイムは、死者の王ーーゼノスを退け、単騎で大国を滅亡寸前まで蹂躙し続けたという。彼はそんな殺戮の毎日に明け暮れ、やがて30歳頃にリアナを授かり、その数年後にアシュを弟子にした。


 現在、大陸には、そこまで大きな戦乱が起きているとは言い難い。であるとするなら、殺戮の英雄か、救済の聖女。どちらの天秤に傾くにしろ、社会には不要な人材、すなわち社会不適合者であることは間違いがない。


「まあ、君も僕の教えを受けたわけだから、無職という恥ずかしい事態は避けたまえ。せいぜい、これから巡る国々にアピールするといい。その際は、お淑やかさ、笑顔、謙虚を大切にするといい」

「わかりました! 私がどれだけ有能な人材か、思い知らせてやります」




















 ああ、ダメだなとアシュは思った。






 

 

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