生活
豚生活1日目。
フェンライは、豚小屋へと収容された。他の豚と共に寝泊まりする生活。流石に、食事だけは人間の料理が与えられたが、それ以外は断固として豚であった。
しかし。
「豚が服を着るのかね?」
「……っ」
キチガイ魔法使いの非情なる一言。すぐに、フェンライは服を脱いだ。スッポンポン。美女執事のミラがいる前で、スッポンポンである。
「ぶひっ、ぶひひっ、ぶひひひっ」
なんという恥辱。裸の状態で、四つん這いになって、豚の鳴き真似をする。これ以上の屈辱がこの世の中にあるというのか、いやない。
フェンライは即座に結論づけた。
「まあ、まだまだ豚になれているとは言い難いが、初日であればこの程度かな。共に生活することで、よく豚を学ぶといい」
「ぶひっ」
「断っておくが、僕はなにも意地悪でこのようなことをしてる訳じゃない。君が仮に人の上に立った場合、底辺の者たちの気持ちも推し測らなければいけない。だからこそ、自らを彼ら以上の底辺に追い込み、その体験をすることによって、善政へ活かして欲しいという僕の想いなのだ」
「た、確かにそれはーー「人語をなぜ話しているのかね?」
「……っ、ぶひっ、ぶひっぶひひっ」
「……」
厳しい瞳で、抉るような視線を、アシュはフェンライに向ける。この男の目的が、彼には理解できなかった。正直言って、実際に豚の真似をすれば、すぐにその覚悟を認め、融資をしてくれると思っていた。
自分が豚の真似をすることで、アシュにとってなんの得があるのか。彼の意図も、情緒も、思惑もわからぬまま、それでもフェンライは豚を演じきる。もう、賽は振られた。自尊心を売った自分に残されたのは、もう明るい未来しかないと信じ込んで。
「……まだまだ、君はその身を豚だと認識していないようだ。また、来るからそれまでには本当の君の覚悟を見せておくれ」
そう言い残して。
アシュはミラと共に、豚小屋を去った。その夜、フェンライはさめざめと鳴いた。自身で選択したこととは言え、このあまりにもな仕打ちに。
そして、誓った。必ずこの屈辱を、いつかそのまま返してやると。自分が成り上がり、十分に力をつけた後、そっくりそのまま豚として、アシュ=ダールを飼育してやると。
・・・
そして、豚生活1ヶ月目。
大分、豚との共同生活にも慣れてきた。こうしてみると、不思議なもので豚の鳴き声でなんとなく何を言っているかわかるようになってきた。
ただ辛いのは、たびたびミラが、仲のいい豚を連れて行くこと。そして、新しい豚を連れて来ること。
それが、何かを想像することは彼にとっては辛い体験だった。
そんな中、白髪の魔法使いが豚小屋へとやって来た。
1ヶ月ぶりのアシュ=ダール。初日以外には、顔を見せなかった。まさしく、1ヶ月ぶり。あれだけ、覚悟がみたいとほざいておいて、2回目、1ヶ月ぶりの訪問。少なからず、いや大いにフェンライは怒っていた。
覚悟を問うからには、見届ける義務があるだろうと。
「ぶひっ、ぶひひひっ、ぶひっぶひっ」
フェンライは鳴いた。
どうだ。これが、貴様の望んだ覚悟だ。これが、フェンライという男の覚悟だと。アシュの足元で、まるっきり豚の仕草で、豚のような声で、わなないた。
「……」
「ぶひっ、ぶひひひひっ、ぶひっぶひっぶひっ」
「……なあ、ミラ」
「はい」
「なぜこの人は豚の真似をしているのかな?」
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