寝言
「う、うーむ……」
睡眠機能のないミラ以外、全員が睡眠中。そんな中、アシュは夢の中でうなされていた。全然、誰にも褒められないせいで。まったく、誰にも自慢できないせいで。彼のストレスゲージは、ほぼマックスであった。
「うぐっ……はっ……ぁ! はぁ……はぁ……夢か」
「悪夢でも見たんですか?」
汗だくになったブランケットの代わりを、優しく彼の身体に包み込ませる超有能執事。実際、アシュにも、夢の内容は覚えていない。しかし、そんな時は決まって小粋なジョークを交えるのが、紳士としての彼の習慣。
「いや、少し……生徒たちに嫌われる夢をね」
「大丈夫ですよ。これ以上、嫌われるほどの好感度はありませんから」
「……っ、ははっ」
アシュは反射的に笑った。彼のマインドが耐えられず、自己防衛機能が働き、ミラの言葉をジョークだとみなした。
しかし、まるでナイフのように鋭利な一言。ジョークだとしても、すぐに受け取るのは難しい。ジョークだとしても。
すぐに彼は現状からの逃避を試み、主に女子生徒たちを眺める。
「……寝てるな」
「はい」
「まったく、なんて性格の腐った生徒たちなんだろうね。今もなお、僕を称賛せずに無視し続けるなんて」
「……寝てるからじゃないでしょうか?」
「わかってないな。普通は、寝言とかで褒め称えるだろう? 本当に尊敬しているのであれば」
「……」
尊敬されてねーよ、とミラは思う。
一方で、集団的放置。戦略的無視。アシュの頭の中に、これらのワードが思い浮かび、勝手に悲しくなるボッチ魔法使い。確かに、アシュが費用を持ち、幹事として主催した旅で、彼に労いの一言もなければ、文句も言いたくなるのもわかる。
しかし、実際にはミラが幹事なので、彼の不満は総じて被害妄想である。
「……うーん、アシュ先生」
!?
その時、シスがつぶやいた。
「ほら! ほら、ミラ。見たまえ! ほら、ほらっ!」
「……はい」
めちゃくちゃ嬉しそうにはしゃぐアシュを心の底からウザいと思ったミラは、それでも展開通りになった青髪美少女のことが心配になる。なぜなら、心優しきシスは、絶賛異常魔法使いにたぶらかされ中だからである。
「……アシュ先生」
「フフ……なんだい? 言ってみなさい」
必死に。青髪美少女の耳元に囁く自称大陸一の紳士。それを側から見ている執事は、どの視線から見ても、変態にしか見えない。
「……ミラ、もし起きそうになったら魔法で眠らせなさい」
「アシュ様が永遠に眠ればいいと思いますが、かしこまりました」
ミラは、いつものごとく不本意な命令を受けとる。寝言を聞くために必死。もう、必死すぎる。
「アシュ先生……」
「うん。なんだい? 遠慮はいらない。言ってみなさい」
「……パ」
「パ?」
「……パカパカ」
「……ん?」
「……」
「……」
・・・
一時間が経過。もうすでに、シスは熟睡モードに入ったようである。気まずい空気が、アシュとミラの間に流れた。パカパカ。アシュ=ダールは、パカパカ。悪口でも褒め言葉でもない。なんなのかよくわからない不完全燃焼。
「……アシュ先生」
!?
その時、リリーが寝言をつぶやいた。
「ほら! ほら、ミラ。見たまえ! ほら、ほらっ!」
「……はい」
はしゃぐアシュ。ウザがるミラ。先ほどのデジャヴかと思われるほどの展開である。
「なんだいリリー君。この大陸最高峰の闇魔法使いの素晴らしい戦いを見て、なにか思うところがあったんじゃないかい? 遠慮なく言ってみなさい、さぁ」
「……」
もはや、ほぼ自分で言ってしまっている状態ではあるが、変態魔法使いは懲りずに金髪美少女の耳元で囁く。
「アシュ先生……」
「うん、うん。なんだい?」
「パカパカ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます