評価


 執事ミラはアシュ=ダールの最高傑作である。


 それは、創造主自身が絶大なる確信を持って吐いた言葉だ。誰もが見惚れるほどの容姿に、万能に使いこなす魔法。近接格闘は、大陸でも指折り数えるほどの実力。


 それだけでなく。


 大陸の書物のほとんどを詰め込んだ知識は、決して忘れることはない。いつ、いかなる時も情報を適切なタイミングで答えることができる。馬術、料理、裁縫などのあらゆる趣味をこなし、マナーや常識なども王族級の貴賓を兼ね備える。


 そんな完璧な人形が判断した。


 目の前の主人は、偽物である。


「……っと、どうしたんだいミラ?」

「……」


 いったい、いつの間にロイドと変わったのか。激しい戦闘をこなしていたとは言え、ミラの目を出し抜くとは、なんとも抜け目のない主人である。そういった意味では、ある意味では見直さなければいけないだろう。


「まったく、ダンマリとは。やる気のない人形だな」

「……」


 ミラの思考が、ロイドであると判断しているので、特に謝罪はしない。


 こんな、カッコイイ主人は未だかつて見たことがない→アシュ=ダールはマジキチ主人である→この男はアシュに変装したロイドである


 結論として、やはり最低であるとミラの思考は判断した。


 そんな有能執事の判断をよそに、アシュは未だ華麗に立ち回っていく。


「いいかい、リリー君。君は聖闇魔法を弱者に向けて使わないように心がけているが、僕は違うと思うね」


 そう笑って。


<<命を 刈り取る 悪魔を 死せん>>


 詠唱チャントと共に、魔法陣から悪魔が出現した。人ほどの大きさを持ち、漆黒の翼を持つ。鋭い瞳は、明確な殺意を持ち、野獣のような牙が獰猛に光る。


 悪魔オリヴィエ。


「グオアアアアアアアアアアアアアッ!」

「ぐあっ!」


 狂った雄叫びと共に。近づいて来た剣士の腕を獰猛に食いちぎった。舞い散る血しぶきが、敵の意気をそぎ落としていく。


「あまり、気軽に近づかない方がいい。この悪魔は、ミラとは違って、気が荒いからね」


 下位の中でも、最も強く獰猛とされている悪魔は、ある程度高位の魔法使いでなければ召喚できない。しかし、この中ではリリー、ジスパ、リデールは召喚可能な悪魔である。


「例えば、僕がリリー=シュバルツならば、オリヴィエを召喚して近接格闘の抑止に使うね。そして、遠隔はこうやるのさ」


 アシュは滑らかな動きでシールを描く。


<<絶炎よ 限界を超え 灼熱すら 焼き尽くせ>>ーー炎帝の一撃イルヴァム・ドレイ


 あさっての方向に、巨大な炎の塊を放つ。それは、燃えるというレベルではなかった。マグマすら越える超高温が炉心溶融メルトダウンを小規模で引き起こし、取った先には塵一つとして残らない。


「火属性の極大すら越える超極大魔法。かつて、僕が葬った敵の魔法さ。彼は炎魔法の天才であったが故に、これを生み出した。近接を封じ、遠隔でこれを放たれて、まだ僕に刃向かってこられる者がいるかい?」


 闇魔法使いの問いに。


 刺客たちは攻撃をやめることで答えた。


 その光景を見ながら、アシュは後ろを振り返る。


「リリー君。要は使いようだ。聖闇魔法はこの威力すらも越えるほどの魔法。抑止として使用すればそもそも、彼らを黙らせることはできたのだよ」

「……」

「君たちもいいかい? 戦闘というのは、いかに早く終わらせるか。どう、効率的に立ち回るか。この2点を常に考えながら行動しなければいけない。君たちが殺戮を望まないのであれば、より重きを置いた方がいい」

「「「「「……」」」」


 この目の前の魔法使いはなにを企んでいるのだろう。


 こんな、カッコイイ先生は未だかつて見たことがない→アシュ=ダールはマジキチ教師である→この男はなにか良からぬ陰謀を企んでいる。























 結果的に、生徒たちもミラも、アシュを最低だと見なした。(一部除く)。


 

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