汚物
「……」
「……」
・・・
沈黙の音が聞こえる。
「アシュ先生。なんて言いました?」
「ああ、リリー=シュバルツ君は耳が悪かったんだったね。無実と言ったんだよ。無実。む・じ・つ」
「……」
金髪美少女は自覚した。やはり、自分の耳はおかしくなんかない。おかしいのは、目の前にいるクソ教師。やっぱりクソ教師だった。
「ふざけないでくださ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――い!」
このガン声は、玉座の間中に木霊した。近くにいたアシュの鼓膜の機能が不全に陥るほどの元気で、ハキハキとした、攻撃的な大声。
「た、他国まで来て恥ずかしくないのかね、君は!?」
「恥ずかしい? ええ、恥ずかしいですよアシュ先生。あなたの存在が。そ・ん・ざ・い・が! 無実な訳ないでしょう? あなたが証拠を提示することで完全に、反論の余地なく、絶対的に死刑でしょう! 死刑! 死刑! 死刑! 死刑! し・け・い!」
「「「「「……っ」」」」
恐ろしい。なんという末恐ろしい少女だと、ギュスター連合国はリリー=シュバルツのキチガイレベルを圧倒的に引き上げた。
そんな中、アシュはやれやれと両手を挙げて肩を竦める。
「確かに、僕が提示するであろう証拠は少なく見積もっても死刑以上に値する案件だ。だが、それは普通の国民だったらの話だ。彼らは違う」
「えっ?」
「わからないかい? 彼らは上級国民だよ?」
「……」
「この国は共和制を敷いているから、見せかけは平等を謳っている。しかし、実態は違う。彼らが病気になれば、国家で一、二を争う魔医が医療にあたる。頼まなくても夕食に平民の税金一年分のワインが贈与される。国民が疫病にかかれば、真っ先に安全地帯に避難でき、戦争になれば後方から国民を鼓舞して戦地へと送る。なぜ、そんなことがまかり通るか。彼らが上級国民だからだよ」
「……そんな馬鹿なことがありますか?」
「あると言うか、事実だから仕方があるまい。ギュスター連合国というのはそういう民主制共和国なのだから。彼らが政権を牛耳っていると言うことは、それが民意だ。4年に1度行われるこの国の選挙で民衆が選んだのだから」
「で、でもこんな悪いことをしてるなんてみんな思ってないと思います!」
「君は馬鹿か? 知ってるに決まってるじゃないか。君たちはいわゆる特権階級で温室育ちだからそう思うのかもしれないが、大体の国民が彼らが汚いことを認識しているよ。少なくとも成人して数年働いて、ちょっと考えて見ればわかるよ。政治家が汚い? いや、当たり前じゃないか。想像力を働かせれば、だいたいわかることだ」
「くっ……でも、今回の件が明るみになれば」
「言わなければバレない。僕も国民にまでそれを晒す気もないし」
「私がいいます!」
「それはナルシャ国がギュスター共和国の内政干渉になるが、構わないのかね?」
「くっ……」
金髪美少女は、さすがに黙る。
「いいかい? これが、民主主義の正しい姿なのだよ。上級国民を選んでいるのは普通の国民だ。もちろん、彼らには投票の自由がある。でも、面倒くさいのだよ。だから、選挙にも行かない。ただ、文句だけは言いたいから、世論だなんだと口汚く罵る。選挙にも行かないのに。だいたいギャスター共和国の投票率は3割に程度だろう? だったらちょうど7割。ちょうど同じくらい腐ってるじゃないか。汚物じゃないか。だいたい、自分たちが選んだ大臣たちなんだから、自業自得というやつだよ」
「……」
「ふっ、論破」
アシュは、口をパクパクしながら喘ぐリリーを尻目に、大臣たちの方を向く。
「すまないね、綺麗事ばかりの理想論者たちばかりで。普段、君たちのような、卑怯で、矮小で、汚職塗れの、汚物は滅多にみないものだから。君たちは今まで通りでいいから。今まで通り、声高々に理想を吐き、国民を騙して、影で汚いことに手を染めて、自身の利益のみを追求して貰えばいいから」
闇魔法使いは、満面の笑みで答えた。
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