ほの……ぼ……


 そこからは、酷いものだった。キチガイ魔法使いによって、次々と贈与されるプレゼントは、大臣たちにとって、どれも喉から手が出るほど欲しいものばかり。

 だが、そのどれもが彼らの後ろめたい事実から察せられるものだった。売春。麻薬取引。密輸。殺人。戦争教唆。賄賂。ありとあらゆる、闇の事実を、次々と明るみにしていくうちに、阿鼻叫喚の嘆きが玉座の間に木霊する。


 実に大臣の3分の2が、破滅の道へと突き進まざるを得なくなった。


「……

「……」


 異常です、の間違いじゃないかとライオールは思った。昨日の同盟をまとめあげる為の会合が、まさか一瞬でこんなことになるとは思わなかった。共和国制の最高権力者である五老が全員暴かれ、権力はダリオ王にのみ集中することになる。


 これは、ギュスター共和国の革命である。


 ある意味で、最も血を流さない政治変革を成し遂げた瞬間だった。暴力を伴うクーデターでなく、ただ情報を無垢に開示することによって、正々堂々と破滅を宣告する。本人にとっては、まったく無自覚(なぜ無意識なのかは意味不明)で行われることが、こんな事態を引き起こすなんて。


 そんなアシュの凶行には慣れているのか、生徒たちは恐ろしいほどに普段通りだった。中でもミランダは、こんな事態に晒されているにも関わらず、まったくいつも通りのテンションで、のほほんと自己PRに勤しんでいる。


「あの、私は元平民という身分ですが、誰よりも熱意があります! 真っ直ぐ、真摯に、ひたむきに頑張ります!」

「……なるほど」


 熱々の自己紹介を受けている一方で、絶望に暮れている大臣たちを眺めるバルガ。こんな状況の中で、我関せずでいける人となりは、とてもではないが、生徒たちがまともな神経だとは思えない。


「ちなみに……彼らのことはどう思う?」

「はい! えっと、スカブール大臣は収賄の罪で無期懲役。カノビ大臣は、密輸罪で死刑。レプロール大臣の裏金は、懲役10年ほどが妥当かなと思います! で、次にケボヌロ大臣は――」


 ハキハキ。


 これも、試験の一環かと思い、ミランダは張り切って答えていく。そんな中、さすがにバルガが目を細めて大臣たちを見つめる。政敵とはいえ、ここまで国家に尽力してきた彼らを人の情として不憫に思えてきた。


「……厳しいな」

「えっ? そうですか? あくまで、ギュスター共和国の法律と慣例に基づいた判決かと思いますが。なにか、見落としてますか?」

「……っ」


 忖度なし。


 他国の若者には、一片たりとも忖度はなかった。


 そんな中、リリーや、ジスパ、ダンたちが集まってヒソヒソ話を始める。


「ミランダ、あの判例を見落としてない?」「えっ、嘘」「ほら、十年前のキスレルーク大臣の収賄」「あっ、そうだ。あれも、無期懲役かと思ってたら死刑だったっけ?」「多分、この問題、罠だよ」「身分も考慮か。共和国制だから、大臣たちって民衆の代表だから……」「確かに。なるほど。だから、罪は世論に従って重くなるのか」「でも、それって身分によって罪状が変わるから危険じゃない?」「そこがお国柄によるって罠なのよ。ほら、バルガ総長の『厳しいな』って言葉。アレが罠。あえて、そうやって揺さぶって、罪状を軽くするような答えに誘導しているのよ」「うんうん……わかった、みんな。ありがと」





















「全員死刑です!」

「……っ」


 ミランダはハキハキと答えた。

 

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