ほのぼの?
案内されたのは、玉座の間だった。それまで、大臣たちとバルガは、今回の同盟について激しく議論を繰り広げていた。側にはライオールも控えている。
そんな中、堂々と、意気揚々と、当然のように登場するアシュと誘拐犯たち。
「……っ!」
二度見。三度見。四度見。やはり、渦中の闇魔法使いを何度も見返すギュスター共和国の面々。ライオールはこれ以上ないくらいの苦笑いである。
「やあ。そろそろ、この国から出発しようと思うんだ。それで、今度ここに働くはずのミランダに君に挨拶をさせようと思って」
「よろしくお願いします!」
「……っっ!?」
深々と爽やかにお辞儀をする生徒。どこからどう見ても、誘拐犯にそぐわないそれは、彼らに混乱しか与えない。
「ああ、そうそう。君たちにはお土産をあげないとね。賄賂じゃないよ。あくまで、僕の厚意さ。えっと……ミラ、読み上げてくれ」
そう言って、彼は有能執事にリストを手渡す。
「はい。では、スカブール大臣。あなたには、黒真珠の指輪を各種30種類。全てナルシャ国一の鍛冶職人の特注でございます。妻のディル様に隠している29人の愛人の分も含んでおります」
!?
隣にいるスカブールは冷や汗が止まらない。ギュスター共和国一の愛妻家と言われている老人に、多数の愛人がいることを暴露。そして、それは普段から妻の自慢話を聞かされている彼らにとっては衝撃的な事実であった。
「ああ、そうだったね。これで、下級役人からチマチマと賄賂を受け取らなくても済むじゃないか。これで、『ゆすり大臣』という陰口を叩かれなくて済むよ。遠慮なく受け取ってくれたまえ」
「はっ……くっ……」
ニッコリ。
100%純度の善意の笑顔でアシュは笑った。
「ご、ごごごご誤解だ! 陰謀だ! 私はそんなことはしてない! 断じてそんなことは!」
「僕の言っていることが間違っているとでも? 心外だね。なんなら、証拠をだすが?」
「はっ……ぐっ……」
「で、次はカノビ大臣。君には金塊を500㎏ほど進呈しよう。可哀想に。薄給だから、他国との密輸をせざるを得ないのだろう? 貧乏というのは哀しいね。これで、君が本当にやりたい部署で働いてバリバリやるといい」
「ち、違う! 嘘だ! 妄言だ!」
「嘘? まったく。僕の執事であるミラをなめてもらっては困るな。後で、証拠を提出しておきなさい」
「はい」
「あが、あががががががが……」
顎が割れるほどに。
口をあんぐりとあけたスカノビ大臣は両膝をつく。
「続けさせていただきます。次はレプロール大臣。あなたにはーー」
「い、いらない! そんな土産は断固としていらない!」
レプロール大臣は狂ったように叫ぶ。
「受け取っておきたまえ。これは、いい魔薬でね。脳の活性化作用が通常の倍ほど促進する。これで、出来の悪い息子を進学させるために山ほどの裏金を工面しなくても済むのだから」
「そ、そ、そ、そんなバカな! 我が息子をぐ、愚弄してーー」
「ああ、面倒くさいね。ミラ、まとめて証拠は提出しておきなさい」
「かしこまりました。では、次にーー」
それこら、ミラは淡々と読み上げ、アシュは嬉々として理由を述べていった。
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