ほのぼの(4)


「さて、じゃあ挨拶しに行くかな」

「「「「「はーい」」」」」


 元気な生徒たちの声と共に、馬車はギュスター共和国の主城へと向かう。気分は完全にアゲアゲ。課題と称したダリオ王誘拐を見事なし得た彼らは、意気揚々と凱旋である。


「……と、止まれ!」


 主城の門番が思わず二度見した。いや、三度見。四度見。配布されている洋皮紙に書かれた絵と彼らを何度も何度も見比べる。最終的に十度見ほど行った門番は、やがて確信へと至った。


 えっ、こいつら指名手配のヤツらじゃん!


 昨日の指名手配から、急転直下の同盟。どう考えても、下への説明が間に合っていない。いや、間に合うはずがないのである。

 しかし、アシュは気にしない。だって、誤解だから。誤解は、誰にでもあるから。


「ミラ、面倒だから眠らせておきなさい」

「はい」

「ごふっ……」

「なっ、き、貴様っ……ぐあっ」


 有能執事は、門番のみぞおちに、拳を深々と突き刺す。そして、もう一人の門番も後ろ回し蹴りで気絶。秒で二人の意識を途絶えさせ、意気揚々と馬車は主城の中へと進入する。


 生徒たちも、もはや日常なのでなにも気にしない。


「うわー、頑強な城ですねー」「兵士たちも、みんな強そうですすねー」「おはようございます!」「おはようございます!」「おはようございます!」「おはようございまーす!」


 元気よく、あまりも礼儀正しくお礼をしながら入っていく。誘拐犯たちは、『あらあら、社会見学かな。元気なだなぁ』という暖かい視線に包まれながら、堂々と城内に侵入した。


 そんな中。


「「「「「おはようございます!」」」」

「ああ、おはよう。社会見学かな。元気っ……っ!!!!」


  二度見。三度見。四度見ほどして。共和国制最高権力者の一人、五老スカプール大臣は目をシパシパした。先日のダリオ王誘拐事件に深く関わっていた彼は当然、目をシパシパするのである。


「やあ、誰かは知らないが、僕はアシュ=ダールと言います。以後、お見知りおきを」

「……っ、な、なぜ貴様が……ここにっ」


 老人の頭はパニック状態である。なんで、超危険人物が目の前に。というより、なぜこの城に堂々と入っている。警備はどうした。なぜ、ここまで騒ぎになっていない。さまざまな疑問が交錯し、結果的に彼は思考停止に陥った。


「ああ、ちょっとバルガ君に挨拶に来たんだ。どこにいるか知ってたら、案内してくれないか?」

「はっ……くっ……」

「あれ……聞こえなかったのかな。ああ……耳が遠いのか。バールーガー君! の! とこに! 案内してくれないか!(逆らえば殺す)」

「くっ……わ、わかった」


 耳が悪いどころか、『逆らえば殺す』という幻聴まで聞こえたスカプール大臣は震えながらアシュ一行を先導した。



 

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