ダリオ王
それから、数十分ほどライオールとアシュが意味不明な会話をしていた。文化祭。ボードゲーム。トップレス喫茶。人間チェス。会話としては一応成立しているが、とてもではないが理解できない。
なにかの隠語だろうか。
一通り条件めいたものが成立した後、ダリオ王の意識が再び遠のく。どうやら、背後から魔法めいたものを放たれたようである。まさか、なんの言葉も言えないまま、混乱したまま最後を向かえるとは夢にも思わなかった。せめて、戦場で……最後を迎えたかった。
「む……ね……」
*
次の瞬間、ダリオ王が気づくと、自室の天井があった。
「気がつかれましたか?」
「……バルガか」
二度とこの地を踏むことはないと思っていたが、どうやら、生きて帰れているようだ。死んでないことへの安堵と、なぜ生きたまま返されたのかの疑問が、入り乱れた不思議な感情を芽生える。
「私の不手際です。どんな処分でも受け入れます」
「なにを言う。私がいけなかったのだ。自身の実力を過信した」
素直に忠告を聞けなかったことを反省する。アシュという男が、あのような人語を解さない、人の感情を解さない男だとは思わなかった。魔法使いとしての脅威ではなく、あの得たいのしれない人格。
絶対に関わりたくない類いのヤバい男だった。
「……しかし、代償か、不幸中の幸いか。ナルシャ国との同盟を結ぶ運びとなりました」
「ど、同盟? なぜ、そんなことに」
「もちろん、我が国にとって悪いことではありません。むしろ、隣国の警戒をしなくてもよくなるという点において、豊富な人材・資源交流において、国力の大幅な向上も見込めます」
「……それは、五老たちが提唱している通りになった訳か。皮肉なものだ」
「正直、してやられた感は否めません。国力はこちらに分がありますが、人材はあちらが圧倒的に上です」
「……」
伸びしろが違いすぎる。いや、ヘーゼン=ハイムが死んだ30年前時点で、大勢がナルシャ国に集まるのは必然であったのかもしれない。ライオール=セルゲイという聖闇魔法のカリスマ。アシュ=ダールという闇のカリスマ。そして、すでに死んでいるが、アリスト教元大司教サモン=リーゼルノという光のカリスマ。
若かりし芽吹きが、一斉に花を開く。時代の芽吹きというものを、ナルシャ国からは感じる。一方で、ギュスター共和国では、未だ国内での足の引っ張り合い。将来、どちらの国が輝くかなどはもはや明確になってしまった。
「ところで、なにか身体に異変はありませんか? ライオール先生との取引においては、無傷で帰すということでしたが」
「ああ。身体は問題ない」
そう言いながら、ダリオ王は起き上がる。むしろ、拷問にかけられることを覚悟していたので、むしろ気持ち悪いぐらいだ。
「それは、よかったです。アシュ=ダールは本当に読めませんから」
「……っ」
そうバルガが言った時、ダリオ王はゾクッとした。
もしかしたら、大事な何かを弄られた……のか?
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