やっぱりボードゲーム(2)


 ボソッとアシュがつぶやいた一言を、ライオールは逃さなかった。


 ボードゲーム。


 すぐに、ライオールは部屋の周囲を見渡した。そこには、確かにボードゲーム用の棚が一つ陳列されていた。確かに、趣味と言えば趣味だろう。

 しかし、この部分は水晶玉からは見えない箇所のはずだ。とすれば、情報としてアシュが取得している可能性が高いが、彼は興味のないことはまるっきり―スルーするような性格だ。


「ダリオ王がそうおっしゃったんですか?」

「……い、いや。なんとなくそう思っただけなんだけどね。ほら、彼はチェスが好きだろう? 同じ盤のゲームだから。それに、いかにもって顔をしてるだろう? これ以上ないくらいのボードゲーム顔というか」

「……」


 大分、焦りながら言い訳をしている感じがする。アシュという人物は極度の照れ屋でもある。そのくせ、照れポイントがまったくズレているので、まったくよくわからないのだが。


 とすれば、ボードゲームをやりたいから、ダリオ王を誘拐した?


 ……いや、それはないなとライオールは一瞬で判断した。


 さすがに、そんなはずはない。いくら、アシュの思考能力がぶっ飛んでいると言っても、さすがにそれはないだろう。


「そうですね。ボードゲームもいいかもしれませんね。そうだ、文化祭の出し物として、他国も広く招待しようと思っています」

「……っ。はぁ……はぁ……」

「あ、アシュ先生? 大丈夫ですが」


 なぜか、水晶玉越しに、胸を抑えて息をきらし始めた。基本的に目の前にいる闇魔法使いは、不死身である。なので、必然的に病気による体調変化ではない。なにかの興奮が身体的な変化をもたらしたと言える。


「……ボードゲームは生徒たちが合作で制作するのがいいですかね? それとも、アシュ先生が制作されますか?」

「は、はぁ……はぁ……はぁ……く、クリエイターかプレイヤーかを選べと? い、いつまでに選べばいい?」

「えっと、どれくらい時間が必要ですか?」

「……5日ほど」

「そんなにですか!?」

「重要だろう! クリエイターかプレイヤーかで楽しみ方が全然違うんだから! むしろ、どちらも同じくらい楽しみな行為で5日もの期間は短すぎる位に思っている!」

「も、申し訳ありません」


 滅茶苦茶強く言われた。普段から、感情を露わにすることのないアシュがこの時ばかりは酷く興奮していた。かなり、取り乱している。顔もどこか赤くなっているし、かなりの動揺を孕んでいる。


 まさか、本当に?


「わかりました。まだ、文化祭まで時間はありますから、ゆっくりと考えてください」

「た、助かるよ。そうか、文化祭の出し物か……考えもしなかったな」

「えっ?」

「いや、さすがは理事長だと思ってね。ボードゲームというものを文化祭に織り込むなんて。僕には考えもしなかったな」

「あ、ありがとうございます」


 ライオールはお礼を言いながら考え直した。

 いや、さすがにそれはない。ボードゲームを文化祭に織り込むなどというごくありふれた一般的なアイデアすら思いつかなかったのだ。それで、なんでボードゲームをやりたいが為に、他国の王を誘拐するという考えが出てくるのだ。


 やはり、それはない。


 考えられない。


 そんな風にライオールが自己完結した時、ふとアシュの隣にいる有能執事がゆっくりと頷いた。
















 あっ……そうなんだ、とライオールは思った。

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