会談


 4人は、ダリオ王の部屋に入った。ライオールは、あえてその場所を指定し、バルガはそれを飲んだ。まったく違和感のない会話で、大臣のスカプールはまったく気づかなかったが、そこでも2人の戦略的思考は火花を散らしていた。


 バルガは、未だライオールとアシュの2人が共謀していると思っている。ダリオ王の部屋を指定することで、彼の人となりを知る必要があるのだということを読み取る。すなわち、最も欲している今回の誘拐の目的である。


 一方で、ライオールはバルガの探りを承知した上で、ダリオ王の部屋を指定した。多少の危険を冒してでも、アシュの本当の目的を探らねばならなかったから。

 間違っても、アシュの独断だと思わせてはいけない。そうなれば、両国は戦争をするしかなくなる。


「ここがあの『猛き狼』と呼び声高いダリオ王の部屋ですか」


 王の部屋としては、至って簡素なものだった。立ち並ぶのは、軍事の本の数々。変わった武器。チェスとボードゲーム。根っからの戦争好きで、アシュが興味を持つ人物だとは到底に言い難い気がする。


「さて、ライオール先生。話してもらいましょうか。いったい、なにが目的なのか」

「……私が危惧していることは、ナルシャ国とギュスター共和国の戦争。これは、両国の国力を疲弊させる結果となる」

「お戯れを。我が国家の主城に聖闇魔法をぶっ放し、ダリオ王を誘拐した。これは、我が国に対する宣戦布告と捉える以外になにがあると言うのですか?」

「宣戦布告ではないですが、我が国が保有している人材の優秀さを見せつけるという意図はありました。どうでしたか、彼らは?」

「……っ」


 ライオールはニッコリと笑う。下手に出れば相手はつけあがる。ここまで来てしまえば、自国の無実を主張したところでなににもならない。ならば、この状況を徹底的に利用して自国の有利になるように立ち回る以外に選択肢はない。


 むしろ、ダリオ王を誘拐してもらってよかったと白髪の老人は思っていた。


 自分では決して切れないキチガイカード。イクところまでイッたその奇行は、ナルシャ国にとっても、ギュスター共和国にとっても劇薬だった。両国の潜在的敵意を露わにし、両国の緊張を一気に高めた。しかし、逆に言えば互いに気の置けぬ間柄であると露呈したようなものだ。


「我がホグナー魔法学校の特別クラスには、アシュ先生によって開花した優れた生徒たちがいます。ミランダ=リールもその1人。恐らく、バルガ総長がみすみす彼らを逃したのであれば、恐らくは彼女が作戦を立てたのでしょう」

「あまりにも突発的で、穴の多い作戦でしたよ。私が参謀にいれば一日中は説教をするほどの未熟さでしたよ……ただ、新鮮でした。味方の能力を知り尽くし、120%以上を引き出し、彼らを200%信頼尽くした上での作戦でしたから」

「ほっほっほっ……それを聞けばミランダという子は喜ぶでしょう」


 アシュやミラの思考を読み取っているとすれば、バルガほどの者が易々とダリオ王を誘拐させるはずがない。優秀で熟練した軍略家であればあるほど、相手の想定があまりにも違えばその誤りも大きい。


 アシュが嬉々として話していたのは、ミランダという生徒の立案能力。味方の特性をよく知った上で、創造的な戦略を立てる。チェスをやっていて、一番楽しいのが彼女だと話していた。


 天才軍略家を一介の生徒が出し抜く。それは、ライオールにとって、どこか痛快な珍事であった。


 アシュ=ダールの特異なところはそんなところだ。あの人は、勝敗という絶対的な尺度にすら囚われない。なので、重要な事柄を容易に若者に託せる。彼は笑いながらこう言うだろう。大いに失敗して、大いに学べばいいと。


「き、貴様ら。さっきからなんの話をしている!?」


 大臣のスカールが机を叩いて怒鳴る。


「……わかりませんか? ライオール先生はギュスター共和国との同盟を申し出ているのです」


 バルガはこともなげに答えた。

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