同盟
同盟とは同じ目的のため、互いに同一の行動を取る約束のこと。国家との間で取り交わされれば、互いの領地を侵さないことが大きな目的として使用される。どこから、どの文脈でそうなったのか、当然わかるのは当人たちだけだろう。
「……んっ!?」
当然。
当然、スカプール大臣は理解ができずに聞き返す。
「ああ、ハッキリ言えばよかったですね。ギュスター共和国とナルシャ国は、互いに堅く盟約を結ぶべきだと提案させて頂きます」
ライオールはいつも通り、丁寧な口調で答えた。
「……なぜだ、なぜそう言う話になるのだ? ライオール=セルゲイ。貴様はダリオ王誘拐の首謀者なのだろう?」
「だから、どうしたんですか?」
「……っ」
いけしゃあしゃあと認めるライオールに、五老と呼ばれる重鎮はひるむ。
「貴様……そんなことを言って、この場から無事で帰れるとでも思っているのか。これほどの国家的非礼は、大陸中の国々から反感を持たれうる行動だぞ」
「そんなことをすれば、当然、我が国はダリオ王を殺しますし、私も殺される。そうなれば、ギュスター共和国とナルシャ国の戦はもう止められません。大陸中の国々はそれを笑って傍観していればいいわけです」
「……とっ……まっ」
ライオールは平然と投げかけ、スカブール大臣は汗が止まらない。確かに、このままライオールを捕らえて、ダリオ王が死ねば、そうなる可能性が高い。と言うか、そうなる。ギュスター共和国は共和国制。猛りきった国民感情を抑える機能がないのである。
「それに、誘拐犯が誘拐に成功したら身代金を要求するでしょう? 私も、その作法に則っているに過ぎません」
「はっ……くっ……」
ニッコリとすがすがしいまでに、盗人猛々しい。こんな恐ろしい方が自分の教師だったのかとバルガは苦笑いを浮かべた。
「あんまり、いじめないでくださいよ。とにかく、ダリオ王を無事に返還頂くことは絶対条件です。捕虜も幽閉も許しません」
「そうでしょうとも。私の方は、人材・技術・物資の交換を希望いたしますね。今後の関係も考えて、あくまで対等で行きましょう。最も欲しい人物は、もちろんバルガ総長ですが」
「この状況で離れられるはずはないでしょう。人材としては……ミランダ=リールが欲しいですね。あの手のタイプは徹底的に仕込んでみたい。もちろん、国家機密を漏らさぬ契約魔法を交わしてという条件付きになりますが」
「それは、あちらも喜ぶでしょう。あと、相談ですが、リリー=シュバルツはいりませんか?」
「あんな化け物いるわけがないでしょう。冗談じゃない」
「それは、残念です」
ライオールは心から思った。最近の彼女は、アシュ=ダール化が過ぎる……いや、どちらかと言えばヘーゼン=ハイム化か。どこか、他国で宮仕えして、自身が異常であることを体感してくれればいいのだが。
「アレは我が国にはとてもじゃないですが、扱えません。ただ、他国との戦争の際には兵器として使用してもいいですか?」
「うーむ。彼女の意向も確認しなくてはいけませんが、彼女がいいなら、いいでしょう。元々、好戦的な気性ですし。ただ、高いですよ?」
「特別料金ですか」
「当たり前です。今後の化け方にも寄りますが、将来的にはヘーゼン=ハイム級かと。最近は中位悪魔も操れるようになったようですし」
最近受けた報告で最も身震いしたのは、中位悪魔オイリエットとの契約。魅悪魔を体内に取り込めば、もはやライオールにすら対抗しきれぬ化け物になる。彼女自身はアシュ=ダールしか見えていないが、もう単独で彼女に対抗できるのが大陸にいるのかと不安にさえ思う。
「中位悪魔……どうやったら、そんな異常な成長を?」
「もちろん、アシュ先生の教育の賜です。ある意味、アシュ先生よりも厄介な存在です。城を一つ落とすのと同じ値段だったら交渉してみますよ」
「……末恐ろしい話ですな」
「ほっほっほっ……若さがあっていいじゃないですか」
「で、ライオール先生の要求は魔法剣の研究成果ですか?」
「それは応じられないと思いますので、扱える優秀な子をホグナー魔法学校に派遣してください。アシュ先生が喜ぶと思いますので」
「……ラルドーのことをご存じなのですか?」
「さあ」
ライオールは首を傾げる。
「あとの詳細はエステリーゼ先生に任せます」
「こちらも政治は門外漢なもので。あとは、スカブール大臣に。いいですね?」
「……貴様、あとで覚えておけよ」
「さて……あとは、アシュ先生の説得ですね」
「ん?」
「ああ、いや。こっちの話です」
部屋をグルリと見渡しながら、ライオールは苦笑いを浮かべた。
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