判断
*
そこから、なにが起きたのか。ダリオ王自身も覚えてはいない。リリーの張った魔法陣を破壊すべく剛剣を振るったこと後、気がつけばベッドの上に寝転んでいた。見慣れない部屋。少なくとも城よりは豪華な佇まい。
ダリオ王はベッドから立ち上がろうとしたが、すぐに膝から崩れ落ちた。手足は縛られていないが、力がまったく入らない。魔力も全て奪われて、恐らく軟禁状態なのであろう。
そんな中、豪奢な椅子でカップを傾ける白髪の男。
意識が戻ったのを確認するや否や、ゆっくりと立ち上がりダリオ王の下に近づいて、まるで舞台俳優化のような丁寧な挨拶を繰り出す。
「初めまして。僕の名はアシュ=ダールと言います。以後、お見知りおきを」
「……っ」
この男が。その笑顔はあまりにも禍々しく、歪んで見えた。端正で若々しいその顔にそぐわぬ白髪は、あまりにもアンバランス。その仕草、いや、その姿。その存在そのものが道化のように感じる。
紛れもなく、ダリオ王が出会ったことがない類いの人物である。
「なにを企んでいる?」
「企む? いや、なにも。ただ、僕は君とボー……話をしてみたいと思ったんだ。ほら、人は誰しも趣味の一つや二つはあるだろう? 乗馬。剣術。魔法。いや、ちょっと堅すぎるな。そんなお堅いもの以外で。例えば、どんなお茶が好きだとか。普段、休日でなにをやってるのか。特に、時間が空いたときは、なにをやってるのか。ボー……ほら、アレだよ。わかるだろう? ククク……クククククハハハハハハハハハハッ! ハハハハハハハハハッハハハハハハハハハッハハハハハハハハハハッハハハハハハハハハッハハハハハハハハハッ!」
「……っううっ」
狂っている。
この男は狂いきっていると、若き王は結論づけた。
「あ、あの……アシュ先生。私も自己紹介をしたいのですが」
「ああ、そうだったね」
圧倒的キチガイ感に目を奪われていたが、部屋の片隅に数人の男女が控えていることに気づいた。いずれも、かなり若々しい。こちらは、目の前の狂人よりは幾分まともに見える。
そのうちの1人の女が緊張感を漂わせて、こちらへ近づいてくる。
「あ、あ、あの……ミランダ=リールと言います。今回の作戦を立てたのは、私です。どうでしたか?」
「……なにがだ?」
いったい、なにが聞きたいのかがわからない。答える、答えないじゃなく、わからない。素直にダリオ王はそう思った。捕らえられて、軟禁させられて、『どうですか?』と尋ねられて、答えを求められても『なにがだ?』となる。絶対に、そうなる。
「その……合格でしたでしょうか? 不合格でしたでしょうか? ほら、課題です」
「……」
ああ、こいつも狂ってるのだとダリオ王は思った。
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