混乱


「いや、失敬。彼らは僕の生徒でね。あなたのことを尊敬してやまないそうだよ? 現状、両国関係はかなり良くない。でも、僕はね。彼女のような優秀な若者を派遣することで、両国の関係が好転すると願ってやまないんだ。いわゆる、未来志向ってやつかな」

「……ううっ」


 遠い目をしながら、狂った言葉を放つキチガイ魔法使いに、ダリオ王は混乱が止まらない。主城に攻撃しておいて、国家の象徴を誘拐しておきながら、仲良くしたいと言い張ってくる意図がまったく読めない。


「なにが目的だ?」

「も、目的? だから、先ほども言ったじゃないか。お互いのことをより知りたいなと思ったんだよ」

「……それならば、会談を申し込めばよかったんじゃないか?」

「そう。そうしようと思ったんだよ。で、そっちに向かっていたんだが、バルガ君が急に襲ってきてね。まったく、野蛮な男だ。忠告をさせて頂くと、あの男は死刑にした方がいいと思うよ?」

「くっ」


 ボソッと耳打ちする感じが、いちいちカンに触る。一言一言が全てうさんくさい。なにからなにまで腹が立つ。そして、普通は嘘の中に真実が紛れ込んでいたりするものだが、全部が嘘っぽ過ぎて、話にもならない。


「ところで、この部屋は首都内のホテルだが、なんだか落ち着かなくてね。僕の部屋と同じような間取りに改装させてもらった。もちろん、それに見合った費用はオーナーに渡してあるよ」

「……」


 だから、なんだ。こいつは、なにが言いたいんだ。元々、ダリオ王は勇猛な戦士である。アシュのような非戦闘学者型の周りくどい物言いは、解さない。


「ほら、なにかこの部屋を見て感じないかい?」

「……」


 ダリオ王はあたりを見渡した。本が多く置かれていて、別の棚に装飾やら、ボードゲームやらが飾られている。変わった部屋と言えば、変わっているが、あいにく借りてる主が異常すぎるので、なんら異常を感じない。


「んー、いささか回りくどかったかな。失敬失敬」

「ハッキリと言ってくれないか。私は武人なので、そういった機微には疎いのだ。目的をキチンと聞かせて欲しい」

「……なるほど」


 アシュは難しい表情を浮かべ、グルグルと部屋を回り始めた。その間、『生徒』と呼ばれた者たちは、反省会と称して楽しくワイワイとお部屋パーティーを始めている。


 なんという異常者の集まりだ、とダリオ王は思った。


 そんな中、執事のミラがアシュに耳打ちをする。その時、初めてその表情に忌々しげな、面倒くさげな色が移った。なにやら、「今は忙しいのに」とか「それは、あとでよくないか」と言う言葉が飛び交う。


「あー、申し訳ない。ライオールから、至急の連絡があるとの事だったので、すまないね」

「……っ」


 ライオール=セルゲイ。やはり、奴が黒幕だったか。まず、間違いなくこの闇魔法使いと共謀して、国家の転覆を考えていると、ダリオ王は確信に至った。


 そんな中、アシュは面倒臭そうに、水晶玉に魔法を唱える。


『アシュ先生ですか? ライオールです。あの、至急ーー「今は、忙しいから後で」


 ガチャ。


 秒で水晶玉の光が途切れた。


「……」

「……すまないね、じゃあ続きを話そうか?」

「……っ」


 このキチガイは危険というには余りある。

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