「ふむ……」


 アシュは、地に座したまま、全体を見渡しながら、考える。この場合の最適解は、なんなのか。どうすればこの事態を切り抜けられるのか。


 さながら大軍師のようであるが、実際には腰が抜けて動けないだけ。


 囲んでいるアリスト守護騎士は、屈強な猛者たちだ。ミラがいかに優秀な魔法戦士だとしても、その間隙を縫ってシスへと迫ってくるだろう。


 こちらがどのような対応を取ればよいか。あちらがどのような対応を取るか。一度の誤りならまだしも、二度めの誤りは致命的な危険を生む可能性が高い。


 アシュは番外戦において、一度ランスロットに敗北している。


 ならば、今度は確固たる最善手を確実に迅速に打たねばならない。闇魔法使いは切り札である、悪魔召喚の実施を視野に入れた。


「……揺さぶりをかけてみるか」


 指を地面に向けて巧みに動かし印を描く。すると、黒々とした光が宿り、地面にはその黒光で描かれた魔法陣が精製される。闇魔法使いの手が止まり、黒い稲妻の塊が魔法陣に駆け巡る。


<<その闇とともに 悪魔ベルセリウスを 召せ>>


 ポン


「シンフォちゃん……そ、そ、そいつ誰だよ、もしかして僕の他に……アレ……」


 5歳ほどの小柄な体格。黒く小さな翼が背中にちんまり。申し訳程度の牙がチラリ。そんな可愛らしい少年が出てきた。手には、黒い薔薇が一輪。


「ご機嫌はどうかね? ベルセリウス」

「べ、ベルちゃん」


 シスが、その可愛らしい少年を見ながら瞳を輝かせる。絶対絶命の危機。いや、それよりも壮絶な戦闘の真っ最中。魔法弾の嵐と魔弩があられのように飛び交う中、青髪の美少女は思った。


 可愛い、と。


「おい、アシュ……」


 そんな悪魔ベルセリウスは身体をプルプル震わせながら、アシュを睨む。


「ふむ……何かあったのかね?」


「おい――――! アホ――――――――――! 今、シンフォちゃんが変な悪魔と……なんか、こそこそと二人で話してて……すぐに戻せーーーー! 秒で戻せーーーー!」


「そ、それはすまないことをした」


「なんで事前に予定確認できないのかなあんたは!? 僕だって暇じゃないんだよ。よりによって今日……今日この日この瞬間で。神がかり的なタイミングだよ神がかり的な」


 悪魔なのに、『神がかり的な』を連発するベルセリウス。


「ほ、本当に申し訳ない。次からは気をつける」


 厳密に言えば、召喚以外に悪魔との連絡手段はないので事前に予定の確認などできない。そもそも、彼らが繰り広げている愛憎劇自体が突発で起こっているので、予定など確認しようもない。

 しかし、ヒステリックになっている子どもは適当にあしらうに限る。


「ふんっ……それで? 今日は?」


「……えっ」


「用事! なんか、用事あったから呼んだんだろう?」


         ・・・


 アシュは苦々しげに。


「まあ……君が来てから考えようと思っていた」


 アシュが苦々しげにつぶやく。


「……えっ……おまっ……本当に」


「……すまない」


「も―――――、なんなんだよ―――――。呼ぶなよ、決まってないんだったら。よーぶーなよ」


「ま、まあまあ。今から考えるから。えーっと、えーっと……」


 アシュは悪魔の子どもをなだめながら、必死に次の手を考える。ベルセリウスは人の心を読む。『糾弾ブレイム』。性格最悪魔法使いにとって、彼の能力は戦闘の根幹をなしている。


 人の肉体を、壊さないのなら心を壊せばいい。


「大司教の心を読むことはできるかい?」

「んーー……あいつは、無理。心のガードが硬すぎる」

「やはりか……」


 ランスロットは聖魔法の上位者であるし、低位の悪魔ベルセリウスに読ませないだけの技術もあるだろう。かつて、最強魔法使いヘーゼンが表層上の心理と深層の心理の2つに分けたが、似たような芸当を彼は行なっている。


 だったら。


 闇魔法使いは歪んだ表情を浮かべ。


 ベルセリウスに指示をする。


「彼ら側近の心を読みたまえ」




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