戦闘


 尋常ではない。それは、アリスト教守護騎士側からも、アシュ側からも言えることだった。

 守護騎士側から見れば、アシュ、ミラ、仮面の男。たっだこれだけの人数でシスを守ろうとしている彼らは、異様そのものだった。


 キチガイ発言はともかくとして。


 一方で、アシュ側から見れば。アリスト教守護騎士たちの存在自体が異様であった。彼らの実力を嫌というほど思い知っている闇魔法使いは、最上級の警戒をもってあたる。余裕のようでいて、まったくの余裕がない。


 懸念しているのは相性。魔法使い同士の戦いならば、自分たちより強い集団は存在し得ないと確信している。

 しかし、相手は近接攻撃のスペシャリスト。万能のミラはともかくとして、純然たる魔法使いのロイド、アシュとしては最悪の相手である。

 陣形はミラとロイドを左右に置き、アシュの後ろにシスと気を失っているリリーを置く。


「アシュ先生。私も戦います」

「駄目だ。君は最低限の自己防衛をしていればいい」

「でも――」

「このゲームは、君を奪われれば終わりだ。君は彼女の頑張りを無駄にする気か?」


 アシュは眠っている金髪美少女をチラリと見る。その柔らかな表情を眺めながら、蒼色髪の美少女は、チクリと胸に突き刺す痛みを自覚する。

 しかし、その想いをすぐに打ち消し、それ以上に暖かくなるようなリリーの想いで満たした。


「……はい!」

「よろしい」


 アシュはニコリと笑い、「ミラ、ロイド。頼んだぞ」と命じる。基本的に、なにもしないスタイル。

 有能執事はただ、『言われなくてもやります』と思った。


 ランスロットが手を上げると、アリスト教守護騎士たちが一斉に、剣を持たぬ方の右腕を伸ばし、鋭利な刃を飛翔させる。


「魔弩か……」


 魔力の込められた魔石を矢じりに仕込んだ弓を魔弩と呼ぶ。腕に仕込めるほど軽量で腕輪ほどの厚さしかないので見た目でわかる人は少ない。アリスト教守護騎士は、近接では剣を、中距離では魔弩を用いて魔法使いを倒す。


<<土塊よ 幾重にも重り 味方を護れ>>ーー土陣の護りサンド・タリスマン


 ロイドの放った魔法陣は早く、鋭かった。一瞬にして張り巡らされた土壁は堅く、飛翔する魔弩をすべて受け止める。


 しかし、間髪入れずにアリスト守護騎士が斬り込んでくる。目にも止まらぬほどの速度で、飛び上がり豪剣をロイド目掛けて振り下ろす。


 ガキン!


 鈍い金属音が木霊する。かろうじて、ミラがその斬撃を防ぎ、さらに追撃を加えようとするが、別の守護騎士に阻まれる。間隙なき連続攻撃に、ミラの攻撃は封じられる。


 ロイドには遠・中距離を封じさせ、ミラに接近戦を担当させる。それだけで、大半の攻撃は防げる。

  が、全てではない。一人の守護騎士がアシュに向かって斬撃を繰り出す。


 ドスッ!


 かろうじてミラが投げたナイフが守護騎士の背中に突き刺さる。彼が繰り出した斬撃は、アシュの額から数センチの距離で止まる。背中から血を流した守護騎士は力なくその場に崩れ落ちた。


「……ふむ、死者使いネクロマンサーが使う魔法を防止するための特殊な結界が組まれてるね」


 アシュは、横たわっている守護騎士の死体を眺めながら口にした。どうやらこの場に集結するまでに、ひと通り闇魔法に対する対策をされているらしい。


「アシュ様。悪魔召喚で、戦力を増やしてもらえると助かるんですが」

「それは彼らの思う壺だよ。わからないかな? 彼らは僕の魔法力を枯渇させたいんだよ。奥の手は無闇に晒すものではないんだよ」

「……」


 優雅に足を組み、地面に座り込むアシュを見ながら、『だったらお前になにができるだよ』、と有能執事は強く思った。

 実際、中位の悪魔さえ召喚すればこちらが圧倒的に有利になる。死者使いネクロマンサーを無効化された今、唯一にして無二の特技と言ってもいいのに。


「アシュ様、座ってないでもう少し後方にお下がりを。アリスト教守護騎士が間合いを詰めてきています」

「いや。しばしこの大聖堂の床の感触を楽しむとするよ。やっぱり、新築はいいね」

「……素直に腰が抜けたと言えばよろしいのに」


ミラは、足手まとい魔法使いの死を強く願った。

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