食事


 円卓の上には、豪華に並べられている食事の数々。そして、更にその上に金髪美少女と蒼髪美少女。呆然とする痩せ形美女。そんな状況にも関わらず、白髪魔法使いはディナートークに夢中である。


「……な、なにしてるんですか?」


「ん? ああ、リリー=シュバルツ君か。見てわからないのかい? 食事してるんだよ」


「それを見た上での質問なんですが」


「そうなのかい? じゃあ、質問が悪いな。君の求める正解を答えてくれるような質問をしないと。この大陸が君を中心に回っていると思わない方がいい」


 大陸が自分を中心に回っていると思っている男から、そんな指摘を受けた瞬間、リリーの脳内がブチッという音を立てた。


「なんで悠長に料理楽しんでるんですか!? なんでなんで敵と楽しく料理してるんですか!? なんでなんでなんであなたはアシュ=ダールなんですか!? なんでですか―――――――――――――!?」


 その声は、禁忌の館中に、響き渡った。


「き、君の声のうるささはなんとかならないのかね? そ、それに逆に聞きたいのは僕の方なんだが。なんで、君たちは許可なくプライベートな空間に押しかけているのかね?」


 耳を押さえながら、白髪魔法使いは冷静に尋ねる。


「テスラ先生に転送されたんです。私たちはてっきり、アシュ先生が見ているものだと思っていましたが」


 シスが落ち着いた様子で説明する。


「ふむ……まあ、僕は大陸一忙しいので、君たちの動きを逐一観察するような時間はないな」


 大陸一の引きこもりは、堂々とそう言い切った。


「……」


 じゃあ、なぜ先日は浴室の外にいたのだろうと、疑問符が浮かびあがる蒼髪美少女。


「まあ、こちらの状況を説明すると、デートだよ」


「アシュ様の説明だと、なにが何やらだと思いますので不詳ながら、私が説明してください」


 そう言いながらミラが一歩前に出る。


「ふむ……確かにこれは執事の役目か。いいだろう、しかし、プレイベートな部分はオブラートに包んでくれよ」


「……かしこまりました」


 公然と都合の悪い真実を隠蔽するよう命じられた有能執事は、かいつまんで説明をする。最初は、リリーとシスの様子を観察していたこと。そのうち、敵の3人に興味が出たので禁忌の館に転送したこと。以降の様子は把握していないこと。以降、その中の一人であるタリアとディナートークを楽しんでいたこと。などなど。


「最低」


「ふっ……ミラの説明が悪いからリリー君に誤解されてしまったではないか」


「……申し訳ありません」


 強靱なメンタルを持つ狂人に、有能執事は深々と頭を下げた。


「しかし、テスラ君も転移魔法を習得していたか。あれは、デルタ=ラプラスの新魔法オリジナルのはずなんだが……やはり彼女は侮れないな」


「あっ、そうだ! そんなことよりテスラ先生を助けに行かなきゃ」


 思い出したようにリリーはつぶやく。


「君はバカか? アリスト教徒で彼女を害することなど、大司教でもできはしないよ。少しの間は大人しくしていなさい」


「ぐっ……でも、人質を取られて」


「それも織り込み済みが故の行動だろう。彼らアリスト教徒が彼女のことを知っているように、彼女は自分がどうすれば反抗できないかを知っている。だからこそ、君たちをここに送り届けた。ある意味で、誰も傷つけないという目的を達していた訳だ」


「……テスラ先生は大丈夫でしょうか?」


 シスがおずおずと質問する。


「心配はないだろう。まあ、牢屋に捕らえられてしばらくは監禁という目に遭うぐらいだ」


「そ、それって心配あるのでは?」


「なんで? 長くて数ヶ月だろう?」


「「「……」」」


 絶句。時間感覚がぶっ壊れている無邪気な闇魔法使いに一同が絶句した。


、周囲にはアリスト教徒が張っているようだ。彼らの警戒が終わるまで、泊まっていきなさい」


 闇魔法使いはギラリと漆黒の瞳を光らせた。






 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る