戦術



 始まりの合図とともに、陣形を組むナルシャ国のメンバーたち。最前列にシスを置き、後方の4人は波状で横に並ぶ。


 一方、ギュスター共和国のメンバーたちは一斉に散らばって円形闘技場の端を陣取る。


「これは……変わった戦術ですな」


 白い髭を伸ばしながら、ライオールがつぶやく。


「魔法壁を張るのではなく的を絞らせないように動く。一般的に騎士が魔法使いと対峙するときに使用する方法です」


 バルガが無愛想に答える。


 元々ギュスター共和国は魔法使いの人的資本に乏しい国だ。その元凶とも言える人物がまさしくライオールで、優秀な魔法使いはこぞって隣国に流入した。


 バルガは起死回生の策として『魔法戦士』の育成に取り掛かった。


 動き続ける敵に、大技は撃てない。手始めにリリー、ダン、ミランダ、ジスパの4人は魔法の矢マジックエンブレムを放つ。しかし、やはりそれもことごとく躱される。


 そして、ギュスター共和国のメンバーの3人がシスめがけて襲いかかる。華麗に敵の攻撃を躱し続ける彼女だが、次々と攻撃に加わっていくメンバーが増えていく。リリーたちも援護をしようと魔法の矢マジックエンブレムを放とうとするが、残りの2人がそれを防ぐように彼女たちを翻弄する。


「くっ……」


 息を入れることもできない波状攻撃に、苦悶の表情を浮かべるシス。


 バルガはそんな彼女を見ながらため息をつく。


「シス=クローゼ。素晴らしい逸材だ。是非とも我が国に亡命してもらいたいぐらいですよ。彼女が女でなければね」


「女でなければ……とは気になるものいいですな」


 ライオールが琥珀アンバーの瞳を向ける。


「純然たる事実ですよ。本当に優秀な戦士として育てるのならば、男だ。それは歴史が証明している」


 男と女では基本的な運動能力の差は歴然。肉体的な優位は間違いなく男性にあるとは、一般的に考えられている事実である。


「ほっほっほっ……」


「なにがおかしいのです?」


「確かに、一般的にはそうなのでしょう。しかし、それは彼女には当てはまらないように思います」


「……なぜですか?」


「彼女が天才だからですよ」


「……おいそれとそんな言葉を使うべきではないと思いますが」


 バルガは本当に天才と認めたのは二人。目の前にいるライオールと闇にとらわれている性悪魔法使い。


「しかし、それ以外では表現できないのです……おっと戦いが動いたようです」


 その指の方向には、崩れ落ちるギュスター連合国の生徒がいた。


 なんの外傷もなく。


 まるで眠りにつくように。


「……バカな」


「剣はどうしても重さがあるため振るうには男性が有利。拳法は力を入れなければ相手を倒せないので男性が有利。しかし、力を入れない方が早い拳撃が打てる」


 そう言いながら好々爺は軽めの拳を空に放つ。


「……」


「アシュ先生が開発した栄光の手ハンズ・オブ・グローリーで力を入れなくても相手を倒すことができる。そうとするならば、男女の差よりも才能の差が戦いを圧倒する……というのが私の見解ですが、どう思われますか?」


「……」


 バルガがなんの反論も言えないのは、シスがすでに残りの二人を倒しているからであった。


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