牢獄


「退屈だな……」


 閉ざされた暗闇の中、アシュはポソリとつぶやいた。手錠は以前封じられた構造と同じで、内部からは開けられない構造になっている。力自体が入らないので、手を噛みちぎって脱出することもできない。


 いや、たとえ開けられたとしても。この空間を抜け出すこと自体、現時点のアシュの魔法ではできないのだろう。


「……やはり、一週間だな」


 そう言いながら。


 ゴロンと一度寝返りをうつ。以前、幽閉されたときは100年以上前だったか。


         ・・・


「……ったく。くだらないことを思い出させてくれる」


 走馬灯のように、かつて手錠を外した少女が思い浮かび、アシュは忌々しげに吐き捨てる。


 いろいろなことがあった。


 愛しき者を助けることもできず。


 最も敬愛する恩師も死に。


 ともに歩んでもいいと思った者も死んだ。


 とうとう一人になって。


 それでも生きて。


 果てなき荒野を歩き続けて。


『やがて貴様は……絶望を悟り……そして生きながらも死んでいく』


 ああ、確かそんなことを言った男もいたな。


「……なあ、レイア」


 闇魔法使いは、暗闇の天井を見つめた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る