作戦


 その日から、特別クラスの生徒たちは昼食中や放課後に襲撃対策を始めた。突然襲われた時にアレやこれや議論したり、生徒同士で訓練したりするようになった。


「いい傾向だね」


 理事長室から。アシュは、校庭の生徒たちを眺めながらカフェオレを口につける。


「生徒の方々は頑張っていらっしゃいますが、さすがにデルタ様には歯が立たないかと思いますが」


「確かにね。曲がりなりにも、僕の一番弟子だからね。と言うことは彼らは無駄な努力をしているというわけだ。フフフ……フフフフフフ……フフフフフハハハハハハッフハハハハハハハハハハ」


「……」


 高笑いを浮かべながら地団駄を踏む性悪魔法使い主人に、軽蔑が止まらない有能執事。


「とは言え、まあ、彼らも侮れたものではないよ。特にリリー=シュバルツは単純な戦闘力を取れば大陸でも有数の実力を持っていると言っていい。潜在能力は言わずもがな。まあ、あの通り堅物だから、テスラの老獪さに翻弄されるだろうからね」


「はい」


「それに、シス=クローゼも素晴らしい。君が格闘の訓練をつけていると言っていたが、天分の才があるね。いずれ、君レベルに達するのではないかな」


「はい」


「それに、今は聖櫃として魔法が使えないが、魔力野はリリー並みのものを持っている。いずれ魔法を使えるようになれば、確実に歴史に名を遺す魔法使いになるだろうな」


「はい」


「ジスパ=ジャールも最近聖闇魔法の初歩である魔法を成功させたらしい。彼女は、勤勉だし、大器晩成型だね。ダン=ブラウは精霊リザードの召喚を密かに行ったと聞いた。大陸では精霊召喚師は少ない。貴重な人材だよ。ミランダ=リールは研究に興味があるようでね。同じ研究者としてはあの情熱は見習うべきところだな。それに――」


「……」


「――なんだい?」


「いえ……凄く楽し気に見えたものですから」


「……おお、あんなお子ちゃまどもより、エステリーゼはどこだい? 彼女とのディナーの約束がまだ果たされていないのだった」


「照隠しが下手すぎますし、エステリーゼ君様は毛ほどもあなたと約束などしていないと言い張るかと思いますが」


 有能執事の助言を見事にスルーして、闇魔法使いは職員室へと向かった。


 授業後の職員室は、先生たちがいそいそと明日の準備をしていた。


「やあ、みんな。ご機嫌はいかがかな?」


「「「……」」」


 全員、無視。理事長になって絶対的な権力を持とうと、圧倒的な嫌われっぷりを見せる性悪代理理事長である。しかし、そんなことは気にしない。


「おや……エステリーゼ君の姿が見えないが?」


「あの、あの。彼女は、今日から3日間休暇を取っております」


 タレ目美女教師のナナ=セルガが沈黙に耐えられず、答える。


「ふむ……ミラ、ロマンティックに追いかけるべきかな?」


「それは、壮絶に気持ち悪いので、おやめいただければと思います」


「そうか……では、ナナ君。行こうか?」


 エロ魔法使いは、彼女の肩を抱いて、当然の如く歩き出す。


「えっ? えっ? えっ?」


 戸惑いを隠せない新任教師。


「なにを驚いているのだい? 僕はこのホグナー魔法学校に就任して半年と経たずして頂点である理事長に昇りつめた男だよ。そんな教師の鏡である僕が、新任の君に、教師の極意がなんであるかをディナーを交えて教示したいと思っているだけだよ。安心したまえ、下心はないさ」


「「「……」」」


 一瞬にして、反面性悪教師は、職員室の教員全てを、敵に回した。


 そして、全員『下心あり』と、判断した。


「で、で、でも! 私、明日の授業の準備が……」


「ふっ……今夜は長い夜になりそうだね」


「えっ、えっ、えっ、ええええええええええっ!?」


 新任教師の疑問符が教室中に響き渡った。

















 結局、ナナは酒豪で、ツブされた。



 


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