最低の授業
実に30分のティー・タイムを経て、アシュは特別クラスの教室に入る。漆黒の瞳に映るのは、女子生徒の新制服。そして、その下に履かれているズボン。失望感を隠し切れないエロロリ魔法使いは、大きくため息を一つ。
一方。勝ち誇った様子でいるのは、超優等生少女リリー。昨日、対抗策を考え、思いつき、寝ている生徒たちを起こし、徹夜で連絡をし終え、大満足の表情を浮かべる。
「アシュ先生! 私たちの格好はどうでしょうか? もちろん、校則は破っていません」
「……はぁ」
「フフフ……当てが外れてため息しか出ませんか? 出ませんよね?」
嬉しい。最低魔法使いの野望をくじくことができて、嬉しすぎる超優等生美少女。
「ああ、ため息しか出ないね。まだ、そんなくだらないことを言っている君たち生徒全員に対しての失望でね」
!?
「ど、どういう意味ですか!?」
「はぁ……説明しなくてはわからないとは。本当に残念だよ、リリー=シュバルツ君。君たちは、つい数日前に襲撃を受けたのではなかったかね? そんなタイミングで僕がなぜ、制服を一新するなどと言うことを提案したと思う?」
「「「……」」」
なぜ……果てしなく頭がおかしいからじゃないのか、とは生徒全員の考えである。
「いいかい? 君たちは命を狙われている」
「な、なんで私たちが……」
「理由が必要かい? 命を狙われている時に、君はなんでなんですか? と問いかけるのかい?」
「ぐっ……」
歯を食いしばるリリー。
「……」
一方、ミラは、ひそかに思う。
理由は、あなたのせいですけどね、と。
「いいかい? 僕は敢えて、意味のない『制服改定』を行うことで、敵の目を欺いていたのだ。君たちがその間に対策を施す時間を稼げればと思ってね」
「そ、そんなこと一言も言わなかったじゃないですか!?」
「言わなければわからないかい? と、言うより。言わなくても君たちは僕の意図を察してくれていると、僕は愚かしくも信じていたわけだが」
グリグリ。
頭、グリグリ。
「ぐぐぐっ……」
「覚えておきたまえ。学校と言う場所が君たちの警戒心を軽くする。自分たちが子どもだと思って。大人が守ってくれると思って。しかし、敵はそうは思っていない。特に君たちは、すでに人並み以上の力があるのだから」
闇魔法使いは語りかける。どこの場所にも平穏などはない、と。守ってくれるという意識が、己の命を安くする。守るという意志がなければ、大事なものを守ることができないことを。
「「「……」」」
生徒全員は息を飲む。度重なる襲撃を経ても、どこか他人事のようだったことに、彼ら自身が気づかされた。それでも、誰かが守ってくれるだろうと。心のどこかで思ってしまっていたことに。
「当然ながら、僕の援護は求めぬことだ。これは、君たちへの課題であり、授業だ。時間は、僕の策である程度稼いだが、いつ襲ってきてもおかしくない状況だよ。さあ、彼ら刺客から自らを守って見せたまえ」
「「「はい」」」
生徒全員が気合の入った返事をする。
「いい返事だ」
フッと笑顔を見せ、闇魔法使いは特別教室を後にする。
廊下を歩きながら。
「どうだったかね? 僕の授業は」
満足そうな表情を浮かべるアシュに。
「……見事なまでのすり替えでございました」
ミラは、静かに、答えた。
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