演技


 デルタは口を真一文字に結んで、構える。


「すっかり騙されたよ。まさか、こんな手を使うなんてね」


 元戦天使のリプラリュランを側に控えさせながら、闇魔法使いが得意げにつぶやく。


「……」


監視魔法サーバリアンの応用か……君は、この一帯に幻術を施し、闇魔法が肉眼で見えないようにした。そして、『闇魔法を封じた』と僕に暗示をかけたんだ。脳に直接訴えるそれは、下手な魔法より強力だ。確信が持てなければ、金輪際、僕は闇魔法を使えなかっただろうね」


「……その悪魔は?」


 デルタが差していたのは使い魔ベルシウスのことだ。手品のタネがわかればリプラリュランの召喚は可能だろう。しかし、その前に使い魔を召喚することはできなかったはずだ。


「言っただろう? 僕には優秀な生徒がいると……シス」


「はい」


 嬉しそうに、聖母美少女がアシュの近くによる。


「彼女が使い魔を操って君の心を探ったんだ。1が、君を引きつけている間にね……そうだろう、リリー=シュバルツ君」


 そう呼びかけると、不機嫌そうにプイと横を向く優等生美少女。


「……演技だったのか?」


 デルタが静かに問う。


「私は……ミラさんの言うことを信じただけです。同時にアシュ先生の言うことは嘘だと思っていたので半信半疑ではありますが」


「……」


「それに……あなたは、少し自分を過信してるんじゃないですか? こんな状況で、先ほどの言葉だけで私たちが簡単に信じるとでも? ねえ、みんな」


 !?


「「……」」


 生徒一同沈黙。


 ……演技だったのか?


 それは、彼らがリリーに一番問いたいことだった。完全にあの闇魔法使いの仕業だと信じ込んでいた。いや、最悪仕業ではなくてもフラッグシップ的な役割で、最も彼を攻め立てていたリリーが悪い。


 しかし、彼らが頼りにしていたKY美少女に突然ハシゴを外された。眼前には、おびただしいほどの魔力と殺気を伴った圧倒的な悪魔。まさしき絶体絶命の生徒一同。


「……そうだよ。当たり前じゃないか。し、信じてたよアシュ先生」「み、見事な演技でしたでしょ? あはは、あはははは」「さ、さあ反撃開始ですね」「やっぱり、エステリーゼ先生じゃ頼りないし、一番はアシュ先生ですよ」


 一同、おべっかを開始。


「……ククク。もちろん、君たちにはプレゼントを用意しているよ。さあ、リプラリュラン。君の舞を見せてやりなさい!」


 闇魔法使いは乾いた笑みを浮かべて叫ぶ。


 悪魔はその堕天の翼を羽ばたかせ高速で飛翔。ゴーレムを次から次へと両断していく。


 一瞬にして、18体。一瞬にしてそれだけの数が消滅した。


 さらに滅悪魔は上空へ飛翔。天空で闇の高位体を創り出す。


「……死にたくなくば、動かぬことだ」


 アシュの声が静かに響き、生徒一同は速やかに硬まる。


 その闇は次々と地に放たれ、次々とゴーレムを消滅させていく。


 残る82体のゴーレムは、瞬時に消滅した。


「……『這う者への断罪』」


 デルタは一筋の汗をかきながらつぶやいた。


「それは、彼が天使だった頃にヘーゼン先生が冠した魔法名だろう。僕ならばこう名付けるね……『地を嗤う者への復讐』と」


 かつて、戦天使が数千の闇魔法使いを一瞬にして消滅させた超魔法。それが、今や大陸で最も危険な闇魔法使いの手中にある。


 その事実に、デルタは思わず身震いした。

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