反撃開始


 生徒たちの操るゴーレムは容赦なくアシュに襲い掛かってくる。


「き、君たち。後悔するぞ! いいか、敵は君たちも殺すつもりだ。なんせ、彼らはライオールの失脚を――」


「問答無用! さあ、ゴレちゃん痛い目に合わせちゃいなさい!」


 リリーはノリノリで指示して、闇魔法使いを痛ぶろうとする。


「ふふふ……今までの恨み晴らさでおくべきか」「自分が派遣されたゴーレムで追い詰められる気分はどうですか!?」「やれやれやれ! やっちまえ!」「いつもいつも嫌味ばっかり言ってこのナルシスト魔法使い!」「再起不能にしてエステリーゼ先生と交代させてやる」


 今までの恨みを全て晴らしてやろうとする気合。どこまでも気合が入っている生徒一同であった。


 しかし、どこまでも逃げる逃げる逃げる。ゴーレムの大群からの追撃からも躱し続ける。


「はぁ……はぁ……、君たち……僕にこんなこと……ミラ! ミラ!」


 必死に助けを求めるが、有能執事はクローゼ騎士団団長と激闘を繰り広げている。当然、アシュに構っている暇はない。


「ふざけないでください。私は手が離せません」


「はぁ……はぁ……そこをなんとかするのが執事だろう?」


「できないものはできません。恐らく、この方が自由になればあなたは数秒経たないうちにみじん切りです」


「つ、使えない人形だっ!」


 そう吐き捨てながら、ゴーレムの腕を躱そうとした時に足がもつれて無様に転倒。


「ぐわあああああああああああっ」


 捕まった。囚われの闇魔法使い。ゴーレムに羽交い絞めされ、バッキバキ。バッキバキに身体を砕かれる。


「あっ……ゴ、ゴレちゃん! 離してっ」


 少しやり過ぎたかと、急いで指示をするが時、すでに遅し。ぼろ雑巾のように闇魔法使いは崩れ落ちた。


「やったぁ! やっと恨みを晴らせたね」


 ジスパが至福の表情を向ける。


「そ、そうね……」


 一方、浮かない表情のリリー。複雑怪奇過ぎる乙女心は、倒れている教師を見てなにを思うか。


「……ふふふふふははははははははっ」


 デルタはこの奇妙な光景に大きく笑う。先ほどまでアシュへの復讐に夢中だった生徒たちはやっと彼の存在に気づく。


「あの……あなたは?」


 リリーが代表で彼に近寄って尋ねる。


「はははっ……あー、すまないね。僕はデルタ=ラプラス。僕もアシュ先生の元教え子であり、酷い目に遭わされた一人さ。しかし、この様子だと相変わらず嫌なお人なんだろうね」


 適当に同調しやすいよう乗っておく。ゴーレムを短時間で掌握するほどの優秀さを持ち合わせた生徒たちを同時に敵対するほど、彼の思慮は浅くなかった。


「そ、そうだったんですか。あなたも被害者ですか」


 凄まじく同意する優等生美少女。


「しかし、早いところでアシュ先生を封じなければ。彼は不死だからすぐに回復してしまう」


「そんな……なにもそこまで」


「数日間、動きを封じるだけさ。彼が、これぐらいの攻撃で更生するとでも?」


 言葉ではそう断っておく。


「……いえ、しないとは思いますけど」


「しません! 絶対にしません」「もっともっと痛めつけないと。なんなら2度と起き上がらないくらい」「とにかく、エステリーゼ先生の授業が受けたいんだ」


 躊躇しながら答えるリリーの横で生徒たちが怒号をあげる。それは、もうテンションMAXで。


「ちょ……ちょっと、みんな」


「なにを躊躇してるのよリリー。あなたがやらないなら私がやるわ!」


 そう叫びながら、ジスパが闇魔法使いの方を見るとそこには使い魔べルシウスがチョコンと立っていた。


 悪魔は、倒れている彼の側に寄って耳打ちをする。


「……やはりか」


 アシュはそうつぶやき、地面に手をつけたまま唱える。


<<漆黒の方陣よ 魔界より 闇の使者を 舞い降ろさん>>


 やはり、なにも起きない――ように、見えたが地面から突如として悪魔が出現。


「……リプラリュラン」


 デルタの顔が一気に引きつった。


 悪魔リプラリュラン。かつて史上最高と謳われたへ―ゼン=ハイムのみが召喚できる戦天使だったが、アシュによって堕落させられ悪魔と化した。


「ククク……その顔が……見たかったんだよ」


 闇魔法使いは、歪んだ顔で笑った。


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