新魔法

 

 シルササ山の遠足が終わり、禁忌の館へ帰ってきた。アシュは部屋に直行し、身体ごとベッドにダイブする。


「ふぅ……疲れたな」


「水浴びになさいますか? それとも、お食事に」


 ミラが無表情で問いかける。


「……あのデルタ=ラプラスが。驚いたな」


「どのような方だったのですか?」


「優秀だった。非常に優秀な男だったよ」


 彼を拾ったのは、なんの変哲もない村だった。戦乱に巻き込まれた孤児で、アシュが魔法のイロハを叩き込んだ唯一の弟子と言える存在だ。


「なぜ彼はあなたの下から去って行ったのですか?」


「……さあ。僕に愛想が尽きたんじゃないかな」


「……」


 その気持ちが非常にわかるミラであった。


 数分後、闇魔法使いはベッドから起き上がる。


「彼が相手になることも考えていかねばな」


「敵になる……と?」


「あくまで可能性の問題だがね」


「普通は師匠には逆らわぬものだと思いますが」


「彼は反抗心旺盛でね。出ていくときに『次にあなたと会う時は殺し合いですね』と言っていたからね」


「それは、恐ろしいほど嫌われていたのでは?」


「……さあて、付き合ってくれるかい?」


 さらりと有能執事の指摘をスルーして部屋から出て外へ移動。


 新魔法開発。アシュは、戦闘が得意なタイプではない。どちらかと言うと、弱者をいたぶり、解剖を得意とする根暗タイプ。対しデルタは非常に戦闘が得意な魔法使いだった。


 恐らく、狙われるとするならば接近戦だろう。アシュのことをよく知っている相手だったら、有能執事と引き離す戦略を選択する。


「どんな魔法をお考えなのですか?」


「そうだな……戦士を近づけさせないような魔法がいいな。浮遊魔法を応用したものを考えていた」


 アシュの前には無数の武器が立ち並ぶ。


「なるほど」


「ふっ……どこからでもいい。本気でかかってきたまえ」


「わかりました」


 ミラの両手が神々しく光りだす。


<<光なる徴よ 聖なる刃となりて 悪しき者を 断罪せよ>>ーー光の印サン・スターク



 両手から放たれた光は無数の刃となってアシュを襲う。


「どああああああああああっ」


 躱す躱す躱す! 必死になって躱す闇魔法使い。


「はぁ……はぁ……ちょ、ミラ、まっ……」


 言い終わる前にすでに、有能執事は間合いを詰めていた。


 弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾だだだだだだだだだだだだだだだだだだだだっ!


 拳の弾幕。圧倒的な速度で、アシュの顔面を捉える。


        ・・・


 30分後、闇魔法使いは起き上がり、自分の首があることをしきりに確かめる。


「アシュ様、大丈夫ですか?」


 絶句。どの口が言うのかと。誰がこれだけ痛めつけたんだと。


「……ミラ、僕の話を聞いていたかい?」


「はい」


「なら……なぜ、いきなり魔法を?」


「本気でかかってこいとおっしゃいましたので」


「……僕の意図を理解して欲しいものだな。接近戦に備えるのだから、接近戦のみだ。いいかい?」


「かしこまりました」


「じゃあ、行くよ!」


<<闇よ 我が手となりて 聖者を葬らん>>ーー悪辣の手イヴィル・ハンズ


 アシュが唱えると、影から無数の手がうごめき、武器を持つ。無数のそれはミラに向かって襲い掛かる。


「ふははははっ、さっきはよくもやってくれたね! 君の全身を無残なまでに切り刻んでくれ――」


 言い終わる前にすでに、有能執事は間合いを詰めていた。


 弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾弾だだだだだだだだだだだだだだだだだだだだっ!


 拳の弾幕。圧倒的な速度で、アシュの顔面を捉える。


          ・・・


 以下同文の展開だった。






 

 


 

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