それで……


 ホグナー魔法学校。理事長室。


「さて、どういうことか聞かせてもらおうか?」


 アシュはソファにふんぞり返り、足を組む。ちょうど、エステリーゼの真向かい、ミニスカートの中が見えるか、見えないか。


 曰く、『そのギリギリが、浪漫だ』と。


「……さて、なにから話しましょうか?」


 ライオールも対面のソファに座って、両腕を組む。


「そうさね……まずは、エステリーゼ。君の美しさの秘密について」


            ・・・


「申し訳ありません。かなり、わかりにくいとは思いますがアシュ様のジョークです」


 ミラは深々とお辞儀する。


「……ほっほっ、申し訳ありません。気づきませんで」


 理事長は、苦笑い。そして、エステリーゼはこれ以上ないくらいの嫌悪感。


「いや……」


 凄く悲しそうな顔をして、答えるアシュ。


 微妙な雰囲気が、あたりを包んだ。


「そ、それでなにが聞きたいでしょうか?」


「ライオール、君とエステリーゼの関係について」


            ・・・


「申し訳ありません。かなり、わかりにくいとは思いますがこれは本気です」


 ミラがまたしても深々とお辞儀する。


「あの……かつての教え子と教師の関係……ですが」


 戸惑ったように老人はエステリーゼと顔を見合わせる。


「……本当だね? 恋人関係とかではあるまいね?」


「なっ! ゲスの勘繰りをしないでください!」


 エステリーゼが顔を真っ赤にしながら怒る。


「ほっほっ……そうですよ、アシュ先生。私のような老人に。それは、彼女に失礼だというものです」


「愛に年齢は関係ない。だからこそ、人は愛を愛と呼ぶのだ……『シリカサ=ノーズ』」


 ナルシスト魔法使いは、遠くを見つめながら、ため息をつく。


 正気だ……この男は正気で狂っている、とはミラが彼に持っている見解である。


「アシュ様はこういった問答が凄く苦手で。差し出がましいようで申し訳ありませんが、私が代わりに質問してもよろしいでしょうか?」


 キチガイ主人に見切りにつけて、なんとか話を進めようとする有能執事。


「そうしていただけると助かります」


 もはやエステリーゼは、先ほど失言をしたゲス魔法使いのことを、全く信用していない。


「まずは……エステリーゼ様。アナタはなにをそんなに怯えていらしたのですか? 私が確認する限り、人から見られている気配はありませんでした」


「いえ……見られていたんです」


「誰にでしょうか?」


「ふっ……僕の熱い視線に……気づいていたようだね」


「エステリーゼ様、誰にでしょうか?」


 無視。闇魔法使いの妄言を無視して、有能執事は彼女に問う。


「国に……このナルシャ国にです」


「……どういう意味でしょうか?」


 ミラには意味が分からない。


「そもそも、おかしいとは思いませんでしたか? アシュ先生が突然計画したシルササ山に、私たちより早く敵は生徒たちに近づくことができた」


 ライオールは静かに尋ねる。


「確かに、アレはアシュ様の独断で、事前に計画することは不可能です」


「敵は……見ることができるんです。この国で起こっていることの全てを」


「しかし、そんなことが果たして可能なのでしょうか?」


「可能だね」


 アシュが自信満々で断言する。なんとか会話に入ろうとするボッチ魔法使い。


「さすがです……もう、わかりましたか?」


 ライオールは白い髭を伸ばしながら尋ねる。


「ああ。敵は、セルジナ魔術理論を用いているのだね」


「……違います」


            ・・・


「アシュ様……お願いですから黙っておいてもらえませんか?」


「……」


 こうして、会話はゆっくりと進んでいった。




 

 

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