ダメ
生徒を乗せた馬車は途中、アステリオルの町に到着。車内で十分な睡眠をとったため、みんな元気。普段は学校の中にいて外に出ることはほとんどないので、テンションMAX。
「ふっ……子どもだな。はしゃいじゃって」
「アシュ様、私に山のようなお土産を持たせておいてよく言いますね」
ミラは、両手に大量の袋を抱えながらジト目で見つめる。
「僕の交友関係は幅広いからね。これでも、少ないほどだが」
「すべて飼育している魔獣用の餌なのは、私の気のせいでしょうか?」
「……あっ、エステリーゼ先生。君には特別なプレゼントを用意しているからね」
強引に話を転換し、彼女の肩に手をまわす。
「……」
無言。その表情はどこか浮かない。
「そんなに照れなくていいんだよ」
ここぞとばかりに、自惚れ発言を吐く、エロ魔法使い。
「……」
どこをどう見たら、照れているように見えるのかとは、有能執事の感想である。実際、エステリーゼの顔色は曇りに曇りきっている。
「……アシュ先生、休憩時間ですが、もう30分早くできませんか?」
「ん? しかし、生徒たちも楽しんでいるしなぁ」
実は、近くの有名な時計台をデートで巡ることを考えていたロマンティック魔法使い。もちろん、生徒のことなど、どうだっていい。
「……そうですか」
「なにか特別な理由があるなら考えるが?」
あまり突き放して亭主関白な印象を持たれても困る。親身な同僚として、意見を聞きながらさりげなく却下していきたいと画策する。
「……」
なにも答えない。
「ミラ、なにか特別な視線は感じるかね?」
さすがに、ただならぬ彼女の様子を、若干不審に感じる。
「……いえ、特に見張られてはいないかと」
「だ、そうだよ。ねえ、エステリーゼ先生。なにか悩みがあるのなら僕に話してみないか?」
「……」
無視。
全然信用されていないんだな、とは傍から眺めていた有能執事の感想である。
その時、
「アシュ先生。エステリーゼ先生。お帰りなさい」
姿を表したのは、ライオールだった。いつも通り、気配を相手に感じさせぬ足運びは、相手に突然現れたような印象を抱かせる。
「理事長……」
明らかに安堵した表情を浮かべ、嬉しそうに駆け寄っていく彼女。
「相当信頼されているんですね。誰かさんと違って 」
「ミラ……黙りなさい」
2人を見ながら、悔し気に立ち尽くす、道化魔法使い。
「アシュ先生、ご苦労でした。遠足はどうでしたかな?」
ライオールはいつも通り、白く曲がった髭を伸ばしながら尋ねる。
「……ははは、非常に有意義であったよ。ねえ、エステリーゼ先生。テントの中で一緒に見た夜景は忘れられない思い出だよね」
牽制。
目の前の老人に壮絶な対抗心を燃やす嫉妬狂い魔法使い。
「や、やだアシュ先生。その言い方だと、なにかあったみたいじゃないですか。理事長、なにもないですよ。ほんとーに、なんにもないんですからね」
「ほっほっほっ、存じておりますよ」
イチャイチャ。
ほのぼの。
ライオールとエステリーゼの間で巻き起こるやり取り。
「……はははは。そうだな。ほんとーに、なにもなかったよ。ほんとーにね」
本当に完全に正真正銘なにもなかったが、本当はなにかあったように見せたい、性悪魔法使い。
その必死にな姿を見て、ミラ、思う。
とんでもない
「そんなことより、エステリーゼ。あまり心配はいらない。君たちがここに来るまでに対処しておいたからね」
アシュの言葉をさらりと流し、ライオールは告げる。
「そうですか……よかった」
彼女は心底安堵の表情を浮かべる。
「どういうことかね? 君はなにを対処したと?」
アシュは老人に向かって尋ねる。
「……ここでは、なんですので。ホグナー魔法学校に戻ってから説明いたします」
「ふむ……ここでは説明できないと?」
「アシュ先生……」
エステリーゼがそう言いながら耳元に唇を近づける。
そして、闇魔法使いだけに聞こえる声で囁いた。
見られてます、と。
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