ボードゲーム(2)


  ボードゲームとは、実は運ゲーではない。高度な知略、駆け引きを要する格式高いゲームだとは、プレーヤー歴175年であるアシュの意見だ。


 闇魔法使いは、3人にゲームのお金を配る。


「ルールはわかるかな?」


「わかんない。でも、いい」


 そう言ってリリーはルーレットを回す。これ以上ボードゲームのことはなにも聞きたくない、投げやり美少女である。


 カラララララッ……


「……6。6か。なかなか、いい数字なんじゃないか」


 嬉しそうに、闇魔法使いは駒を動かす。


『ふりだしに戻る』


「……ぐぐぐっ」


 悔しい。悔しいリリー。大陸有数の負けず嫌い美少女、いきなりのどん詰まり。その深緑色の瞳に涙を溜める。 


「ま、まだ始まったばかりだから」


 普段とは違い、優しい言葉をかける。こんなところで、投げ出されてはたまらない。是が否にでも続けて貰いたいボードゲームマニア。


「じゃあ、私がやりまーす」


 手を挙げて、ジスパがルーレットを回す。数は8。


『結婚する。ご祝儀に2000ガルドみんなからもらう』


「やったぁ。結婚結婚ー」


 キャリアを目指す優等生少女にとって、結婚は望めぬ夢である。それがボード上であっても叶うのは嬉しい。


「次は私、行きまーす」


 シスがルーレットを回すと……5。


『財布を落とす。500ガルドを支払う』


「えー、ついてなーい」


 そう笑いながら、お金を支払う。


「じゃあ、僕だね」


 満を持して闇魔法使いがルーレットを回す……9。


「貴族に拾われる。1000ガルド貰う」


「やだぁ、先生! 何歳なんですかぁ」


 ジスパから優しいツッコミが入り、嬉しくてたまらないぼっち魔法使い。


「はい! はい! 今度私ねっ!」


 リリーが、喰い気味にルーレットを回す。


 カラララララッ……6。


『ふりだしに戻る』


            ・・・


 沈黙するみんな。ルーレットを震えながら見つめるリリー。


「げ、元気出してよ。まだ、始まったばかりじゃない」


 シスが不運美少女をイイコイイコ。


 その後、ジスパ、シス、アシュはルーレットを回してそれぞれ駒を進めていく。


 ワイワイ。


 ガヤガヤ。


 一方、リリー。


 6


 6


 6


『ふりだしに戻る』


『ふりだしに戻る』


『ふりだしに戻る』


「なんで……なんでよー! アシュ先生、なにか仕組んでるんじゃないですか!?」


「し、失礼なことを!」


 普段の行動から、濡れ衣を着せられる性悪魔法使い。涙を溜めながら訴える美少女に対し、全力で否定する。現に、なにも細工はしていない。むしろ、このかわいそうな子のため、逆に『6』の目をなくしたいぐらいである。


「じゃあなんで6しか出ないんですか!? おかしいじゃないですかこんなの」


 それは、こちらが聞きたいとは、性悪魔法使いの切なる想いである。4回連続『6』。番号は1~10。確立としては、1万分の1。奇跡的に運の悪いリリーである。


「次は! 次は絶対だ! 絶対に6はない。さすがに10万分の1はあり得ないよ。僕を信じろ」


 ガッチリ彼女の両肩を掴んで励ます。


 6


『ふりだしに戻る』


「嘘つき―! 嘘つき嘘つき嘘つき――!」


「……」


 絶句。もはや、泣きながら不満を言うこの美少女が、呪われているとしか思えない闇魔法使い。


「リ……リリー。もう一回振っていいよ。ねえ、みんな」


 優等生少女が提案し、みんな迷わず同意。


「……ヒック……ヒック……私、次に6が出たらやめますから!」


 泣きじゃくりながら宣言。


「い、いいだろう」


 そんなわけない。これで、『6』になったら確実に呪われている。すぐさま、解呪師に直行した方がいいと本気で心配し始める3人。


「じゃ、じゃあ……行きます!」


 カラララララッ……


 2


「やった――――! やったやったやったー!」


 馬車の中をはしゃいで飛び回るリリー。


『全力で走って4進む』


『ふりだしに戻る』


              ・・・










  バキッ…………バキッ……ゴトッ…………


 『シルヴィアの目論見』は、こうして終幕を迎えた。

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