第19話 私は彼を突き飛ばした。 【END2】

 私は駆け寄る彼を突き飛ばした。

 お互いにバランスを崩す。だけど彼は倒れはせず、その場で踏みとどまった。

 私はその場に尻もちをつく。

 放たれた弾は、私の頬をかすめ森へと消えていった。

「ルージュッ」

 再度駆け寄って来る王子様。

「痛いだろ?」

そう言い彼は、自分のパーカーの袖で、流れる血を優しく拭う。

「ダメだよ、服が汚れちゃう!」

「バカか、お前の血を止める方が優先だろ! 大人しくしてろ」

「……っ」

私は言われた通りじっとする。

 顔が熱いのは、出血してるせいだけではないだろう。

「ルージュ……、ごめんなさい……」

 私たちに近づいてくるお母さんとお父さん。

「怪我をさせるつもりなんてなかったの……」

「でも実際、この結果です。もし弾が彼女に当たっていたら、取り返しのつかないことになっていましたよ」

 王子様は怒りをあらわにした。

「……あなたの言う通り。ルージュが危ないとき、私達は叫ぶことしかできなかった。あなたは咄嗟に、この子を守ろうとしたものね……。"守りたい"なんて、口だけなのは、私の方だったみたい」

 お母さんは涙を零しながら言った。

「————2人の話し、ゆっくり聞かせてもらってもいい?」



               *****



――――――――――――――……

「……よし、大丈夫。じゃぁ、次の子!」

「はぁい」

 あれから10年。今は狼族で暮らしている。

「……うん、君も健康だね。はい、終わり!」

「ありがとう!」

 ここで獣医をしながら。

 今日は健康診断の日。朝から村みんなの健康チェックだ。

 今の子が最後。問題のある人はいなくて安堵する。

 あの日、お母さんたちと話しをして、私たちの関係を認めてもらえた。

勿論、"一緒に暮らすなら、狼族についてもっと知りなさい"という、条件付きで。

「ルージュ、全員終わったのか?」

「ママ!」

「ん、終わったよー。ソレイユ、お待たせ、遊ぼっか!」

「うん!」

 愛娘の笑顔に癒され、私はその場を急いで片付けて2人の元へ行く。

「今日は何をしよっか」

「んんーー、みずうみでおままごと!」

「またそれ?」

「本当、ソレイユはそればっかだな」

「湖好きは、パパに似たね」

「じゃぁ、このはしゃぎようは、お前似だな」

「ソレイユ、ママ役するのー! 元気ですかーって!」

「分かった、分かった」



――――この幸せは、私が守る。

おばあちゃんに託された、この村も。



【END】


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ROTKAPP~脳内花畑少女~ 羊乃和月 @waduki

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