第43話「ギルドちょうたち」
「陛下、密使による襲撃は成功しました。眠り薬を食事に混ぜておいたので、王都につくまで目覚めることはないと思われます。私は戻り次第ミナセに付き、誘導をしていきたいと思います。これからはなかなか連絡ができない状況になっていきます。ではまた何かありましたらご連絡致します」
成功なんかするわけない。
そう考えながらブレイクは国王との連絡を終わりにした。そう、国王の計画など成功するはずないのだ。サチを捕らえ、それを帝国の仕業に見せかけ戦争を起こす。こんなずさんな計画が通るほど、勢力拡大は甘くないし、それにブレイクが裏で動いている以上、絶対に上手くなんかいかないのだ。
さて、このままミナセの元に行って国王の計画をバラすとしようか。今からだとちょうどミナセ達が依頼を終えて帰って来る時に合わせられそうだ。
【遠見の水晶】を覗くとミナセ達は馬車に揺られ、依頼された場所に向かっていく所だった。見覚えのある道を見ながらブレイクは本人も気づかないうちに、眉間にしわが寄っていた。
ちっ、くだらない事を思い出してしまった……。さて、急いで王都に向かうか。
********************
「なんだい、あんた! こんな時間にどうしたんだ?」
ガーベラと一緒に【黄金の犬鷲亭】から冒険者ギルドに行くと、そこにはブレイクがいた。長いこと待っていたのか、大きく伸びをするといつもの気さくな笑顔を向けてきた。
「ブレイクさんっ! 久しぶりです。ずっと会いたかったんですよ!」
先程のガーベラの話しから多少、落ち着いてきたミナセはブレイクの顔を見て笑顔になった。ミナセにとってブレイクは、こんな時にいてくれると安心する存在だった。
よかった、ブレイクさんなら何かいいアイディアを出してくれるかもしれない。
「よぉ、神殿以来だな。おばちゃんも元気そうでなによりだぜ。いきなりで悪いんだが、ちょっと皆に話しがあってな……。フォートナーも呼んだから、もうすぐ来ると思うぜ。悪いんだがおばちゃんの部屋貸してくれねぇかな?」
「フォートナーまで呼んでなんだい? 今から坊主達と大事な話しをするんだけど……。まぁ、いいか。ついておいで」
ガーベラの私室につくと、すぐにフォートナーがやってきた。ギルド長が全員集まった事と国王の件の中心人物がいる事に気づくと、フォートナーは何かに勘付いた様だった。
「さて、全員揃ったけど何の話しだい? 今、忙しいからつまらない話しなら後にしてほしいんだけどね」
「はっは! おばちゃんだって何の話しか分かってるんだろ? 国王がこれからやろうとしている事と、ミナセ達の探しているサチって子の話しだよ」
サチの名前が出た瞬間、ミナセは思わず身を乗り出してしまった。ブレイクの真剣な顔がサチに何かあったのではと思わせたからだ。ガーベラもブレイクの立ち位置を見極めるかの様に鋭い視線を送った。
「ミナセ落ち着け。お前が思ってる様な悪い事にはなってない。サチって子は無事だ。今は王城の地下でもてなされているだろうよ」
「――っ!!! やっぱり国王がサチを誘拐したんですね! 何で無事なんて分かるんですか!? 戦争を簡単に起こそうとしている人間が、サチを傷つけない保証なんてどこにあるんですか!?」
サチの明確な居場所が分かった事で、ミナセは冷静ではいられなくなっていた。問題の国王の側にいる事が不安でたまらなかったのだ。思わずブレイクに掴みかかりそうになるのを、横にいたコアに止められ、落ち着くようにと諭された。他の猫達もブレイクを睨みながら、主人を落ち着け様と言葉をかけた。
ミナセが話しを聞ける姿勢になると、ブレイクは続きを話し始めた。
「安心しろ、絶対に無事だ。何で分かるかは……俺が国王の計画を全て本人から聞いているからだ」
その言葉にミナセは呆然とし、猫達は怒りの表情と共に身構えた。ガーベラもフォートナーも驚きと悲しさが入り交じった表情でブレイクを見つめていた。
「まてまて、確かに本人からこの計画を協力しろと言われたが、俺は手伝う気なんてまったくないんだ。だが、そこで断っちまったら国王の計画の後手にまわっちまうだろ? だから俺は協力するフリをして計画を潰していこうと思ってたんだ。もちろん説得もしたさ……だが、国王は人が変わったみたいに、まったく人の話しなんか聞きやしない」
ブレイクは疲れた顔でガーベラの顔を見た。そこにはギルド長としてではなく、長年一緒にいる気さくなおばちゃんに対する気遣いが感じられた。
「ブレイク……あんたから見てフォルはどうだった? 私が説得すれば聞き入れてくれそうかい?」
ガーベラはそうであって欲しいと願う様にブレイクに質問をした。
「……おばちゃんには悪いけど……あれは無理だ。野心に燃えていると言うよりも、狂人の目だったよ……。国王はミナセという強大な力が手に入ると思って、帝国を滅ぼそうと躍起になってやがる。最悪、王位を退けないといけないかもしれない」
そうか……と小さく呟くとガーベラから悲哀の感情が色濃くみえた。サチの事も心配だが長年の友が狂っていっているガーベラの心情を考えると、心配せずにはいられないミナセだった。
「で、だ……。ミナセここからが大事な話しになる。国王はサチ誘拐を帝国のせいにしてお前らを戦争に駆り出させるつもりだ。そうならない様に先にサチを見つけて、お前らの所に連れて行きたかったんだが……どうやら国王は俺に睡眠の魔法具をつけていた様で……すまんっ! せっかく俺が先に見つけたのに、途中で拐われちまった……。まさか国王がそこまでしてくるとはっ! こればっかりは俺の不手際だ……。本当にすまないっ……」
ブレイクはミナセに深々と頭を下げた。その顔は己の失態に怒りを覚えていて、どんな仕打ちでも受けるといった態度だった。頭を下げるブレイクの首筋には、まだ新しい痣が痛々しく残っていた。ミナセの勘違いかもしれないが、サチの為に動いてくれていたブレイクが怪我をした事を考えると、それはきっとその時に負った怪我なんではないかと思った。
ミナセはそんなブレイクを見て、責めるよりもそこまでしてサチを探してくれた事に素直に感謝をした。
「頭を上げて下さい。その首の怪我、きっとサチを拐われた時にできたものですよね? 俺、嬉しいです……ブレイクさんがそんな怪我してまでサチを探してくれた事が。まだ会って間もない得体の知れない猫に、そこまでしてくれるなんて……ありがとうございます。ブレイクさん……サチはどんな様子でしたか?」
「……元気だったよ。遺跡の奥にいたんだが、どうやらそこの魔力のお陰で衰弱する事もなく、ゆっくりベッドで寝てたよ。外に出ても疲れただのお腹が空いただの言って、結構振り回されたな……」
「ふふ、サチらしいですね。いっつも寝てるのにご飯の時や、甘える時はすごいワガママなんですよね。そう思いませんか、ご主人……」
ミナセの手を握りながらサチがそう問いかけてきた。
確かに、あいつはいっつもそうなんだよな。誰よりも大人しくしてるかと思えば、自分の欲求にはとことんワガママになって……。そうか……元気だったか。
「そうだな……。ブレイクさん、俺はサチを助けたいし、戦争なんてしたくありません。これからどうすればいいですか?」
それを聞いたキルド長達は顔を見合わせると、誰からともなくこれからの作戦を相談し始めた。
「じゃあ、それで皆さんよろしくお願いします」
気づけば空が明るくなる時間までミナセ達は作戦を立てていた。国王がミナセ達を昇格するにあたって、謁見の場が設けられた時が作戦の決行の時になった。
冒険者ギルド長であるガーベラはミナセ達と一緒に国王と会い説得、それが出来なければ実力行使で国王を黙らせる役。その間にブレイクは地下に潜りサチの救出。これにはミナセが代わりたいと申し出たが、昇格の為に呼ばれたのに当の本人がいないのはまずいので却下になった。それに国王の側で作戦を聞いていたブレイクであれば、地下の場所もすぐ分かるからだ。
説得ができず実力行使になった場合、国王は失脚するだろう。そうすれば少なからず国は混乱する。それを回避する為にフォートナーには動いてもらう事にした。
「失脚するという事は、王位はエドワード王子が継ぐという事ですよね? まだ9つなのに……。ここら辺のフォローもしなければなりませんね」
「貴族連中と懇意にしてるお前なら簡単にできるだろ。頼りにしてるよ」
苦笑で答えるフォートナーの頭には、誰にどう動くかをすでに組み立てていた。
「あの、俺達も何かできる事はないんですか? ただ国王と会うだけじゃ……。皆さんに負担が大きいんじゃ?」
「馬鹿だねぇ、国の大事になんか関わらない方がいいんだよ。こういう事は王国に住む者の責任だ。あんたらは仲間と会う事だけ考えな。これ以上、この国の迷惑に付き合う必要はないよ」
猫達はそうしてくれと言わんばかりに顔をそむけたが、ミナセは納得がいっていない様子だった。だが、フォートナーもブレイクもガーベラの意見に賛成の様で頷いていた。
「では私はちょっと行く所が多いので、これで失礼します」
決まった内容に1番時間がかかるであろうフォートナーは話しが終わると、急いで商会ギルドに戻って行った。ブレイクも、もしもを考えて人払いをするべく衛兵ギルド員に話しをすると言って部屋を後にした。
ガーベラとミナセ達だけになると、ガーベラは静かに口を開いた。
「坊主……もし、フォルと戦う事になったら私に任せてくれないか? なんだかんだ言って長年の付き合いだからね。まぁ、フォルの実力じゃ坊主達が出る幕なんてないんだけどさ、あっはっは!」
思い決意を感じさせる声を誤魔化す様に笑うと腰に下げた短剣を撫でた。そこには国王との思い出が沢山、詰まっているのだろう、ガーベラは少し寂しげな目をした。
「分かりました。でも、そんな事にならない様に俺も手伝いますからっ。それにガーベラさんには及びませんが、うちの子達も一緒に美女3人で説得したら、国王だってすぐ納得してくれますよっ」
あっはっは! と大きな笑い声が室内に響くのを聞きながら、ミナセはサチの為にもガーベラの為にもがんばらなければと心に誓ったのだった。
ある意味、猫は神だけど すねちゅー @yuz
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ある意味、猫は神だけどの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます