第2話

 てっぺいくんは、たった一人ひとりごんぺいおじいさんのおうちれてこられたのです。

 なつの、とってもあつでした。

 おじいさんのおうちのおにわにあるいっぽんさくらは、なつだというのにっぱのいちまいもついていませんでした。

 てっぺいくんは、まいにちまいにちそのさくらながめていました。

 ある

 「てっぺい、どうしたんだい? まいにちまいにちそのさくらばかりげて」

 はたけごとからもどってたおじいさんは、てっぺいくんにきました。

 「おじいちゃん。このさくらんじゃったの?」

 「ん? どうしてだい?」

 てっぺいくんは、おじいさんのかおげるようにしてこうこたえました。

 「だって、なつなのにっぱのいちまいもないんだもん」

 おじいさんは、こしけていたぬぐいであせくと、わらいながらえんがわこしろしました。

 「なるほどなぁ。でも、そのさくらんじゃいないよ」

 「ほんとうに?」

 てっぺいくんは、おじいさんのところまではしってました。

 「ほんとうんでないの?」

 おじいさんは、さくらこうにえるみどりやまを、ほそめるようにしてながらこうこたえました。

 「そうさ、んでるんじゃないよ。ただちょっと、おねんねしてるんだ」

 「てるの?」

 「そうだよ。そのさくらはね、ちょっとびょうなんだよ。だから、しばらくおねんねしてるんだ」

 それをいて、てっぺいくんはまた、さくらちかくまではしってきました。

 そして、さくらをしばらくじーっとげていたのです。

 やがててっぺいくんは、クルリとおじいさんのほうくと、こういました。

 「いつまでてるの?」

 おじいさんはこしばしながらがり、こうこたえました。

 「びょうなおるまでだよ」

 「いつなおるの?」

 「さぁね、だれかんびょうしてくれないからね」

 そううと、おじいさんはごともどってきました。

 てっぺいくんは、はたけかうおじいさんのなかかってこうさけびました。

 「じゃぁ、ぼくかんびょうするね。びょうなのに一人ひとりじゃかわいそうだから、ぼくかんびょうしてあげるんだ」

 そのこえとどいたのでしょう、おじいさんはきはしませんでしたが、こうこたえてくれました。

 「しっかりかんびょうして、びょうなおしてやりな。きっと、なにかおれいをしてくれるから」

 そんなうし姿すがたおおきくうなずいたから、てっぺいくんはさくらかんびょうはじめました。

 まいにちまいにちがっこうからかえってくると「っぱいてないかな?」「あたしいてないかな?」などとおもってさくらげたりりかかったり、ぶんよりなんばいたかいところにのぼったりしていました。

 まいにちまいばんぞらほしのたあっくさんひかっているしたで「はやびょうなおるといいね」とか「つぎはるには、きれいなはなせてね」などとはなしかけてから、とんはいっていました。

 そんなてっぺいくんを、おじいさんはとってもやさしいで、だまってていてくれました。


 あきおわわろうとしているころのことです。

 いつものようにてっぺいくんが、さくらのぼってしなしかけていました。

 さてりようかとおもって、ちょっとしたてみると、そこに一人ひとりおんなえたのです。

 しろいリボンのむぎわらぼうばされるのをいやがるように、ちっちゃなみぎでちょこんとおさえ、じっとこっちをているのです。

 てっぺいくんはするするとさくらからりてくると、おんなまえにまっすぐちました。

 「なにをしているんだい?」

 てっぺいくんはおんなたずねました。

 すると、

 「あなたこそなにしているの?」

 おんなかえしてきたのです。

 リンゴいろしたほっぺのそのは、てっぺいくんよりほんのちょっぴりたかく、てっぺいくんをつめるひとみこうしんかがやきにちていました。

 「さくらとおはなししてたのさ」

 てっぺいくんは、すこまんいました。

 「うそ。このさくらはもうんじゃってるって、おかあさんがってたわ」

 「そんなことないもん!」

 とつぜんてっぺいくんがおおきなこえおこったので、おんなおおきくひらいたかとおもうと、じわっとなみだをためてきだしてしまいました。

 さぁ、てっぺいくんはこまってしまいました。

 どうすればいいんだろう。

 おんなはなおもつづけています。

 「いや、あのね、その…ごめんなさい…」

 これじゃあおんなきやみません。

 そうなるとこんてっぺいくんのばんです。

 こまったしてしまいました。

 っぱのつかないさくらしたで、ちいさなども一人ひとり二人ふたりおおきなこえでワンワンオンオンいているのです。

 やがててっぺいくんが、なみだときおりむせながら、ボソリボソリとはなししました。

 「このさくらんでないもん。おじいちゃんが、おじいちゃんがってたもん」

 ヒックヒックとしゃくりあげ、てっぺいくんがはなします。

 「びょうしているだけだって、おじいちゃんがってたんだもん」

 それをいて、おんなはピタリときやみました。

 「それほんとう?」

 てっぺいくんはまだいています。

 「ほんとうだもん。だからぼくかんびょうして、なおしてあげるんだもん」

 「わたしつだう!」

 「え!?」

 てっぺいくんも、おもわずきやんでしまいました。

 「わたしかんびょうつだう。いいでしょ?」

 「…うん」

 おにわっているいっぽんの、っぱのつかないさくらびょうのそのちいさなおしゃさんが、その二人ふたりになりました。


 さくらのおしゃさんになったおんなさきちゃんは、てっぺいくんといっしょかんびょうはじめました。

 まいにちまいあささくらにおみずをかけてあげました。

 まいにちまいにちさくらげたり、りかかったりしてみました。

 ぞらほしのたぁっくさんひかっているしたで「さようなら」って、おわかれしてからかえりました。

 二人ふたりあきおわわってふゆになり、いっぱいいっぱいゆきっても、ひまになるとかならさくらりかかっておはなしをしていました。

 でもね、さくらかんびょうしていたのは、てっぺいくんとさきちゃんだけじゃないんだ。

 吹雪ふぶきも、ずっとっているとこおっちゃうんじゃないかとおもも、ずっとかんびょうしていたんだ。

 ごんぺいおじいさんは、はるちかくなってゆきはじめたころ、ひさしぶりににわからさくらながめていました。

 ごんぺいおじいさんのつめるさくらは、ふゆあいだかせたゆきはなおもたそうにえだをしならせていました。

 ゆきはなはるちかいからでしょう、したとうめいなつららをつくり、たいようひかりけてゆっくりとゆきみずになってっています。

 おじいさんは、あつくてしぶいおちゃをずずっとすすりながらぼんやりながめていたのです。

 「おや?」

 そして、おじいさんはづきました。

 おにわかこっているいけがきこうに、一人ひとりおとこがじっとさくらつめていることにがついたのです。

 おじいさんがそのおとこをぼんやりつめていると、それがわかったのでしょうか、チラリとせんわせてげるようにいなくなってしまいました。

 おじいさんは、そのはしってうし姿すがたおくりながら、にっこりと、とってもやさしいほほみをシワだらけのかおかべました。

 「おじいちゃん。なにわらっているの?」

 こえづいてくと、そこにはさきちゃんをれてかえってきたてっぺいくんが、かたおおきくいきをしながらっていました。

 きっと、すこしでもはやさくらいたくて、はしってかえってたのでしょう。

 おじいさんはがると二人ふたりまえまでて、二人ふたりはなしかけました。

 二人ふたりまえにしゃがみんで、二人ふたりかおをのぞきむようにして、こうはなはじめたのです。

 「いいかい? きみたちのほかにも、いっしょけんめいにこのさくらかんびょうしているおともだちがいるんだ」

 「ほんとう?」

 おじいさんにかえしたのはさきちゃんです。

 おじいさんはさきちゃんのほういて、ゆっくりおおきくうなずくとこうつづけます。

 「きっとそのおとこも、二人ふたりいっしょなかさくらかんびょうしたいんじゃないかとおもうな」

 「うん」

 そこでてっぺいくんは、おおきくうなずきました。

 おおきくうなずいてこういました。

 「ぼく、そのおとこなかくするよ」

 そうしたらさきちゃんもあわてて、

 「わたしなかくするよ」

 そうって、おじいさんにしろせてわらいました。

 おじいさんは、そんな二人ふたりあたまどうになでてあげました。


 さて、そのおとこまえりょうすけくんとうんだけどね。

 たしかにりょうすけくんはおじいさんのったとおり、みんなといっしょさくらかんびょうしたいとおもっていたんだ。

 だけどね。

 だけどりょうすけくんは、とってもずかしがりさんでちょっぴりりくんでもあったんだ。


 あるのこと。

 りょうすけくんはいつものようにこっそりと、さくらようていました。

 そうしたら、

 「わっ」

 と、うしろからおおきなこえがします。

 あわててりょうすけくんがかえると、そこにはいつもさくらしたあそんでいるおとこおんなっていました。

 りょうすけくんはおどろいたのとずかしいのとおこったのをぜたあかかおで、いけがきにへばりついたかっこうのまま二人ふたりかってわめきます。

 「なんだよいきなり、おどろいただろ」

 てっぺいくんは、おどろかそうとしてやったのです。

 いきなりなのはとうぜんだよね『いまからおどろかすよ』なんてってからおどろかすわけがありません。

 てっぺいくんとさきちゃんは、キョトンとしてかおわせました。

 そして、はじけるように二人ふたりどうにおなかをかかえてわらしました。

 「な、なんだよ」

 りょうすけくんにはなにがなんだかわかりません。

 「ははは、ごめんね」

 てっぺいくんは、やっとのことでわらうのをやめました。

 「きみだろう? いつも一人ひとりさくらかんびょうしていたの。おじいちゃんが、ってた」

 そうわれたりょうすけくんは、くさくなってそっぽをいてしまいます。

 「いいだろ、べつに」

 せいいっぱいりです。

 どうもなおに「そうだよ」とえなかったので、こんなかたになってしまったのです。

 「ねぇ、まえは? なんてうの?」

 さきちゃんがいてきました。

 りょうすけくんはぶっきらぼうにこたえます。

 「りょうすけ

 「りょうすけくんか。ねぇりょうすけくん、ぼくたちといっしょさくらかんびょうをしない?」

 「え?」

 りょうすけくんにとって、それはねがってもないさそいでした。

 でも、りょうすけくんはりです。

 なおに「うん」とは、どうしてもえません。

 いままでだって、ひとりでさくらまもってきたのです。

 ひとりでもるんだっておもちが、こころのどこかでりょうすけくんをらしているのです。

 それとははんたいに、とってもうれしいちにもなっていました。

 ともだちる。

 ともだちいっしょさくらかんびょうできるなんて、なんだかとってもたのしそうじゃないかなぁ…ともおもっていたんです。

 しばらくうでんでうんうんとうなりながらかんがえていたりのりょうすけくんがとったこうどうはこうでした。


 アッカンベー


 「だれがおまえたちなんかといっしょかんびょうなんかするもんか」

 おもいっきりさけぶと、二人ふたりにくるりとけてはしってしまいました。

 「あ、ちょっと、ねぇ、りょうすけくん」

 める二人ふたりこえしてはしりょうすけくん。

 さくらえなくなるまではしったりょうすけくんは、どうしてもかなしくなってきてついにしてしまいました。

 「うえぇえん」

 なにかなしかったんだろうって?

 それはね、てっぺいくんたちといっしょさくらかんびょうなくなったからなんだ。

 りのりょうすけくんは、ほんとうはとってもさびしがりさんだったんだ。

 かなしくて、かなしくて、とってもさびしくて、りょうすけくんはきながらおうちむかかってはしってかえりました。

 てっぺいくん、さきちゃん、りょうすけくんとうちっちゃなちっちゃなさんにんのおしゃさんのいるさくらですけれど、ざんねんながらそのとしはなかせませんでした。

 でも、おじいさんはいています。

 さくらびょうすこしずつくなっていることに。

 さくらが、さんにんかんびょうにちょっとずつこたえようとしていることを。

 さんにんちいさなおしゃさんは、まだそのことをりません。

 でも、さんにんちいさなおしゃさんはぜったいさくらびょうなおるとしんじています。

 さいねんには、きっときれいなはなかせてくれるとしんじているのです。

 おじいさんも、らいねんにははなくだろうとおもっています。

 けれど、おじいさんはっていました。

 せんそうで、ほんけそうなことも…。

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