A person

ひとり

　目をつぶり、深呼吸をする。心のざわめきをひとまず落ち着かせたら、心を整理し始める。なぜ自分は悲しかったのか。なぜうれしかったのか。なぜ失望したのか。なぜ期待したのか。なぜ苛立ちを覚えたのか。なぜ喜びを感じたのか。なぜ涙したのか。なぜ、なぜ、なぜ…

　思考を繰り返し、心の内を整理してゆく。すべての感情、すべての思考にひもを付け、分類してゆく。そうすることで感情の山から生まれた新しいものが見えてくる。繰り返し考え、整理することは自らの思考を高めてくれる。

　人と会い、刺激を受ける。作品を見聞きし、感動する。外部からの刺激はとても大切なものだ。けれど、受け取ったものをそのままにしていては、心の中から抜け落ち、やがては消えてしまう。一時間でも、30分だけでも、一人きりになって自らと対話する時間を取らなければ、やがてすべてが失われ、空っぽの心だけが残ることになる。

　心の中には、様々な自分がいる。音楽をやりたい自分、映画を撮りたい自分、文章を書きたい自分、ひたすら本だけを読んでいたい自分、映画三昧の生活を送りたい自分、スポーツをやりたい自分、自分、自分…

　ネガティブな自分もいる。仕事は、生活は、勉強は、両親は、家は、恋愛は、結婚は、お前はいったいどうするつもりなのだと。時には目を背け、時には現実に悩まされ、落ち込み、ただ目の前のことをこなしていくだけになってしまう。何もなしていない自分に絶望する。

　続けるということはエネルギーが必要だ。技を磨き、思考を磨き、同じことを繰り返すことで力をつける。それが報われようがなかろうが、信じ続け、磨き続ける。その道の果てに得られるものを信じて。