6:ナイフはどこだ①
※作成途中
「初日から遅刻とはいい度胸だな?」
二回目、正確には三回目となるこのセリフを聞いて、俺は笑いそうになった。
不満げな表情で腕を組む新井はこれまでの人生で三桁回数以上見ている。しかし、全く同じ日の同じ時間、という意味であればこの新井ほど見慣れた光景はない。
一ミリたりとも表情にズレがないことがなんだか可笑しい。とはいえ「同じ新井」なので当たり前なのだが。
「正確にはぎりぎり遅刻じゃないが、お前みたいなヤツはいずれ遅刻するって俺は知ってるんだ」
これも聞いたことのある同じセリフ。
「はい! 申し訳ないっす!」
「声だけはいいな! お前、名前は?」
尋ねられ、俺は敬礼。たしか、最初に言った言葉はこんな感じだった気がする。
「オガミシンヤです! 好きな食べ物カレーパン! 嫌いな食べ物 は奇をてらった味の既製品アイスクリーム!」
「オガミだな。よし覚えたぞ。お前の席は今空席のあそこだから早く座れ」
「はい!」
指示された通り、俺は席に移動する。窓際の、後ろから二番目の席。
席に座る途中、カクタの背中が見えた。優等生で、優しくて、サッカーができるクラスの人気者。
時間を何度も巻き戻して自分の思い通りの未来を作っている男。
何としてでも、あいつからナイフを奪う。
「オガミンっ! あたしたち今年も同じクラスだぜ!」
ピンク色のカーディガン、ゆらゆら揺れるポニーテール。
「というか、おがみんは遅刻しすぎなのだ!」
シズオカ アオバ。
未来において殺される可能性のある少女。
×××
保健室を素通りし、俺は体育着のまま教室へと向かう。
体調不良を訴えて体育の授業を途中退席。そのまま教室に向かうというプラン通りの展開。うまく成功した。これで、俺はカクタの見られない範囲で行動できる。
「よし……行くぞ」
小さくつぶやき、教室に向かう。
カクタを長く監視して出た結論。
ナイフを奪うには体育の途中が最適である。
カクタがナイフを常に持ち歩いてるとすれば、天才スリ師でもない限りナイフを盗むことは不可能だ。だから狙うならナイフが体から離れた瞬間。そこを狙うしかない。
教室のドアを開けて、カクタの席に向かう。きれいに折りたたまれた制服が机の上に置いてある。カクタが自分の体から唯一ナイフが離れる可能性があるとすれば、服を着替えた瞬間、それだけだ。ブレザーのポケットに入ってさえいれば、そこでゲームクリア。
折りたたまれたブレザーを広げる。ポケットに触れる。
ナイフ感触が、ある
「……よしっ」
小さくガッツポーズした。そしてそれを取り出す。茶色い柄、鏡と見間違うくらいにきれいに反射する刃。
間違いない。巻き戻しナイフだ。
あとはこれをどこかに隠すだけ。
しかし、ここで予期せぬことが起きた。
「おがみん?」
考えうる限りで最悪のパターン。
ナイフに教室の後方の映像が反射して映る。見覚えがある、というよりも見覚えしかない顔がそこにはあった。
「どうしてカクタくんの机を漁ってるの?」
なんで、アオバがここにいるんだ。
百万回の運命再起動ナイフ TARUTSU @tarutsu2
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