第2話 彼女と彼女の周りの変な人たち

俺は今一人の女性の後ろをついて行く形で歩いている。

その女性とはさっきの講義で知り合った。スタイル抜群で黒髪ショートの芸能人風の顔立ちの女性。

そんな人に腕を掴まれ、今通路を歩いている。

「ちょ、ちょっとなんですか急に」

「いいから、いいから」

なにがいいのかよくわからない。俺はもう女性とは極力絡みたくはないのだ。

さっきの講義で急にこの人に腕を掴まれ、『私にちょっと付き合って』と言われ今に至る。

次は昼休みなので一時間ほど休みがある。俺はその時間を使い、図書館で少し寝ようと思っていたのだ。なのに‥‥

「ちょっと!ちょっと離してください!」

俺は無理やり彼女の手を振り払った。

「なんですか急に‥‥僕はこれから用事があるんですよ」

まぁ図書館で寝るだけだけど。

手を振り払われた女性は少し驚いたような表情をしたが、すぐに真剣な表情に変わったかと思うと早足で俺に近づいてきた。

「な、なんですか」

近い。それになにかいい匂いがする。

「君、今の大学生活に満足していないよね」

「!」

彼女のその言葉は俺の心境を見据えているかのように鋭い指摘だった。

「べ、べつに」

「嘘ね」

彼女は俺の返答に対し、まるで答えがわかっているかのように早く否定した。

「君は今の大学生活をおもしろくない。つまらない。なんで大学にいるのだろうとさえ思っている。違う?」

「そ、それは」

俺はすぐに否定ができなかった。なぜなら彼女の言ったことは全部当たっていたから、正解で図星だったから。

「君の目を見てすぐにわかったよ‥‥まるで昔の私を見ているみたい‥‥」

最後の方が小声になり聞き取れなかったが俺の目を見てって

「どうして目を見てわかるんですか、それに僕とあなたは今日初めて会いました。そんなあなたが僕のなにをわかると言うんですか」

俺は少し腹が立った。

図星を突かれたからとかではなく、何か言葉では言い表せないような感情が溢れ出したのだ。

だが、彼女は冷静に言った。

「目は口ほどに物を言う」

「‥‥」

「私を変えてくれた人がね、私の目を見てそう言ったんだよ」

彼女はどこか懐かしそうに言った。

「私もね、いろいろあって大学を辞めようとしてた時期があったんだ。けど、ある日とある人が私の目を見てこう言ったんだ。『目は口ほどに物を言う』ってね」

「あの時ほど核心をつかれたのは初めてだったな」

彼女は少し笑いながらそう言った。

「だから君の目を見ればわかる」

彼女は真剣な表情で俺を見た。目は俺の目一点を見ていて離せない感覚に落ちた。

でもすぐに彼女は少し表情を緩ませ、

「警戒する気持ちはわかるよ、でも君にどうしても会ってほしい人たちがいるんだ」

と言ってまた俺の腕を掴み、歩き出した。

「‥‥」

俺はもう抵抗する気にはなれなかった。

それは俺の核心を突かれたからなのか、抵抗することがめんどくさくなったからなのかはわからない。

だけど彼女のあの真剣な表情を見て少しは付き合ってもいいかなと思えた。

我ながらお人好しだと思う。


二十分ほど歩いただろうか、大学は広い。俺は少し息が切れていた。

「ここだよ」

膝に手を当て、息を切らしながらも頭をあげるとそこには教室の扉があり、看板が置いてあった。

「『大学をenjoyしよう我々で!』・・・・?」

何かとても怪しい看板である。なぜ『enjoy』だけ英語なのだろうか、カタカナで『エンジョイ』ではダメだったのだろうか。

「どうぞ、入って」

彼女に言われるがまま扉に手をかけ開ける。そして俺は後悔をすることになる。

この時扉を開けず帰っていればと‥‥

中に入ると少し広めの空間が広がっていた。そこはなぜか高校の頃の教室に似ており、少し大学とは違った雰囲気の部屋になっていた。

「部長!新しい部員を連れてきました!」

彼女がそう言うと目の前にあるソファから誰かが起き上がった。

「おー新しい部員くんが来たのかー」

眠そうな声を出しながらソファから起き上がった男は大学生か?と思うほど大学生特有の輝きが全くと言っていいほどなかった。

「君、紹介するよ」

「うちのサークルの部長で三回生の村井長門先輩」

そう彼女が紹介すると、その部長?はよろしくーと気が抜けるような声で言った。

そしてこっちが、と彼女は続けて紹介する。

え、部長の紹介終わり!?

「そこでさっきから筋トレをしている人は村井先輩と同じ3回生の石川大和先輩」

いや、気になってたけどね・・・・

さっきからずっと部屋の端っこで筋肉トレーニングをしている人がいた。

その人は腕立て伏せ?と思わしき腕を使い体を上下させる筋トレをしていた。

その空間だけ熱気がすごく、とても見ていて暑苦しい・・・・

「フン!よろ!フン!し!フン!く!フン!」

話す言葉のほとんどが鼻息だった為聞き取りにくかったが、たぶんよろしくと言ってくれているのだろう。

彼女もやはり熱気が暑いからなのか、石川先輩?からは少し離れたところから紹介している。

そして最後は、と彼女はもう1人の部員であろう人のところへ向かった。

端っこでさきほどからパソコンに向かい何かをしている少女がいた。

その少女は少し小柄なせいなのか大学生には見えなかった。

彼女がその子の肩を掴みこちらを向かせる形にした。

「彼女は1回生の花宮梅ちゃん!私のお気に入り!」

そう言った彼女の目の前にちょこんと座っている女の子は震えて少し涙目になっていた。

たぶん人が苦手で恥ずかしがり屋な子なんだろうと俺はその時思った。

その女の子がさっきまで触っていたパソコンの画面を見るまでは

「あの、すみません。その画面に映っているのはなn」

俺が喋り終わるよりも速く女の子は画面をスリープ状態にし、暗くした。

「なんのことですか?」

「いやいやいやいや!今画面に映っていたよね!変なのが映っていたよね!」

「ちょっと何言っているかわからないです。先輩は外国の方か何かですか?」

「誤魔化すなよ!今の完全に!」

「ボーイズラブだよ」

女の子の近くにいた彼女が言った。

「そう、梅ちゃんはボーイズラブ、略してBLが好きな残念な女の子なの」

彼女がそう言うとパソコンの前に座っていた女の子。花宮さんが頭をおさえながら、ああああああと唸っている。

「なるほど‥‥いわゆる腐女子と言うやつか」

なるほど、ここは変人の集まりか

だが、なぜこの女性は俺をここに連れてきた?

俺の疑問が彼女に伝わったのだろうか彼女は俺の方を見て、

「そして私がこの部の副部長。あなたと同じ二回生の今田未来。これからあなたと一緒に大学を楽しむ人の名前だよ」

と自己紹介した。

「今ここにいる人たちはこれからあなたと一緒に大学生活を誰よりも楽しむ人たち。同じ仲間だよ」

なるほど、わからん。

よし、帰ろう!

俺は回れ右をし、帰ろうとした。

だが、今田さんの一言が俺の足を止めた。

「君は大学生活を楽しんでいる?」

その問いに対し、俺は初めから言うことが決まっていたかのように返答した。

「言うまでもなく、楽しくはない。だが俺は楽しもうとも思わない」

俺はそう言うと振り向くことなくその部屋から出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

大学生パニック! 樽見悠 @tarumi319

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る