大学生パニック!
樽見悠
第1話 俺と彼女の出会いは運命のいたずら
大学は自由で楽しいものだと思っていた。
自由で人が多くて毎日がどんちゃん騒ぎ‥‥
そんなところだと思っていた。
高校はまぁそれなりに楽しかったけど、大学はもっと楽しいイメージだった。
大学に入ればやりたいことがたくさんあった。
まずはサークルに入って先輩や友達と仲良くなって一緒に呑みに行ったり、
そこで知り合った女の子と付き合っておしゃれな街にショッピングに行ったりしたり
そんな夢を勝手に抱いて大学に入学した。
だからこそ俺はショックが大きかったのかもしれない。
本当の大学はもっとドロドロしてて深く、はまったら抜け出せないような底なし沼だということに
そして大学に入学してから俺はいろんな経験をした。
思い出したくもないそんな経験を‥‥
けどその話はまた別の話。
これから俺が話すのはそんな大学を辞めようとしていた俺の目の前に突然現れた女性とその周りの変で愉快な人たちとの物語だ。
大学入学して気づけばもう二年が経っていた。
毎日毎日同じことの繰り返し、それはまあ高校と変わらないのだが今の俺には高校の時と違うものが一つある。
高校の頃は毎日が楽しかった。友達と毎日登下校して、帰りには買い食いをしたりもした。
だが今の俺にはそんな友達はいない。
一回生の夏以降には俺は人との関わりを完全に断っていた。高校の頃の友達がたまに連絡をくれたりもしていたがその連絡も次第になくなり、今は全くなくなった。
俺にはもう友達はいらない。いてもお互いに傷つくだけだ。
そんなことを考えていると、基礎心理学の教授、高橋先生の催眠効果でもあるのではないかというほどのんびりと静かな声が聞こえてきた。
「小早川くん。小早川くん」
俺は声のする方を見た。
六十代手前の白髪の優しそうな顔のおじいさんがそこにいた。
「もう講義は終わりましたよ、午後は別の講義があるのですが小早川くんはその講義も受けるのですか?」
俺は周りを見回すとさっきまで同じ基礎心理学を受けていた人はいなく次の講義を受ける人がもう入っていた。
「あ、いえ、すみません。出ます」
かなりの間ボーッとしていたみたいだ。
俺は机に広げていた教科書とルーズリーフをリュックに仕舞うと高橋先生に一礼しその教室を出た。
次の授業は確か色彩学だったな、あの授業はテストではなくレポートなので正直出ても出なくてもいいのだが俺はもう三回休んでる。五回休んだらアウトだ。
うちの大学は出席を毎回とっており、五回休んだらアウトなのだ。
だから今日はあまり行く気分ではないのだが、行かなければならない。
俺は次の色彩学がある別棟へ向かった。
別棟に向かうには四階の渡り廊下を渡らなければならない。
渡り廊下を渡ったところでもう色彩学がある教室に入っていく生徒がちらほら見える。
みんな友達と喋りながら楽しそうだ。
その中に俺は一人の女性に目が止まった。
モデルのようなスタイルにさらさらの黒髪ショートヘア。顔は整っており、肌は同じ日本人と思えないほど白く、ファッション雑誌に載っていても不自然ではない感じだった。
ああいう人は毎日大学ライフを楽しんでいるんだろうな、友達もいて彼氏もいて
俺とは真逆だな
そんなことを思いながら俺は色彩学がある教室に入った。
「うわあ‥‥」
色彩学は受講する人が多く毎回人があふれ、席も一つの長机に二人座ったり三人座ったりもする。
だから俺は毎回心理学が終わるとすぐにその教室を出て次の教室の一番後ろの端っこの席を取るのだ。
だが今回は俺がボーッとしていたせいで出遅れてしまった。
「飛ぶわけにもいかないしなあ」
俺は教室を見渡した。
スポーツ系の部活に入ってそうなグループ。化粧をしながら彼氏や友達の愚痴を話しげらげら笑う女性グループ。ゲームを黙々としたりアニメの話で盛り上がっているオタクグループ。
どこもグループを作っており、俺の座れそうな席はない。
どうしたものかと考えていると一つ席が空いていた。
ラッキーと思い俺はそこの席に座った。隣には人が座っていたが、三人用の長机だったので実際は隣ではなく一つ席を空けてその隣に座っているという感じだ。
俺はリュックから色彩学の教科書とルーズリーフを出すと少し隣を見た。
「!?」
隣を見るとさっき見た黒髪のスタイル抜群女子大生がいた。
全然気がつかなかった。でももう講義始まるし今頃席を立ってもな
俺は少し緊張をしつつ講義に集中することにした。
講義が始まり色彩学担当の森本教授が色についての講義を話し始めた。
講義が始まり少し経つと肩を誰かに叩かれた。と言ってもこの距離で右肩を叩く人は一人しかいない。
俺はその右隣の人の方を見た。もちろん黒髪スタイル抜群女子大生である。
「ごめんね急に」
その人は申し訳なさそうな顔で話しかけてきた。
「教科書を忘れちゃって、良かったら君の教科書見せてくれないかな?」
彼女はてへへという感じで頭をかきながら困った顔で笑った。
俺は緊張こそはしていたが特に見せない理由もないので机に広げた教科書を右側に少し寄せた。
「ど、どうぞ‥‥」
彼女は先ほどの困った顔はどこに行ったのかと言うほど顔の表情が明るくなり、ありがとう!と軽く頭を下げた。
そこからはずっと心臓がばくばくして、講義内容は覚えていない。
教科書を見るために彼女は空いていた真ん中の席、つまり俺の真隣りに座ったからだ。
彼女は真面目に話を聞き、教科書に集中していたが俺はそれどころではない。
それになぜか俺の方をちらちらと見ているのだ。
なぜだかはわからんがこんなににも綺麗な人に見られるのは人生でもう最初で最期かもしれない。
気づけば講義はもう終わっていた。
「全く講義に集中できなかった‥‥」
俺はその場から早く逃げたくて机に広げていた教科書とルーズリーフを慌ててリュックに直し、席を立とうとした。
「ねぇ!」
俺はその声に振り向いた。声の主は言うまでもない
「教科書ありがとうね、助かったよ」
「い、いえ‥‥別に」
俺は早くその場から離れたかった。彼女がとても綺麗で緊張しているのもあるが、それ以上に過去のことを思い出し女性への恐怖心があったからだ。
「では、僕はこれで」
そう言って俺が行こうとしたその時、彼女が俺の腕をつかんだ。
「君、私にちょっと付き合って」
「はい?」
その俺を引き止めた彼女の手には少し力がはいっており、目は俺の目を真っ直ぐに見据えていた。
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