一方的正義(ワンサイドヒーロー)

有川ヨイチ

第1話 

「おい、今ぶつかったよな」

「服汚れたんだけど、どうしてくれんのさ~」

「ちゃんと責任とってくれるよね?w」

向かい側から来たガラの悪い3人組の男達は笑いながらそう言ってきた。

人気のない広い道で向こうからぶつかってきておいてこの態度だ。

全くもって

「どうしようもない奴らだ」

「あぁ!!

 今なんつった」

あ。

思わず口に出ていたか、まあいい。

「おい、黙ってんじゃねえぞ!!」

「ちょっと待ちなさい!!」

男の一人が手を出そうとしたときに向かいのほうから声が聞こえてきた。

奥を見るとそこには黒い戦闘服をまとった女の警官がいた。

黒髪のロングヘアーでとてもきれいな目をしていた。

「お!

 これはこれは綺麗なお姉さんじゃないですかw」

「なになにw

 警察?w

 僕たち悪くないですよ~

 こいつがぶつかってきたんですよw」

嘲笑しながら男達は警官に歩み寄っていき高らかに言った。

「悪いことわ言わねえ、おとなしく座ってな。

 後でたっぷりかわいがってあげるからw」

男の挑発を無視して警官は奥にいる俺に目をやった。

「君!!

 大丈夫?けがはない?」

警官は俺に安否の確認をしてきた、大丈夫なんだが。

まあいい

「おい、雑魚

 いい加減めんどくせえぞ」

そう言うと案の定男たちは俺のほうをにらんできた。

「おいガキ...生意気言ってんじゃねえぞぉぉぉぉ!!!」

リーダー気取りの男の拳が赤く燃えだした。

「後で後悔してもしらねえからな!!」

そういうと男は赤く燃えた拳で殴り掛かってきた。


ここ'新才'は東京湾に新たに作られた都市だ。

世界ではある時から超能力に目覚める者たちが現れた、その数は急激に増えていき日本では調査する目的で新たな都市を作り日本に住む超能力者、改めPSIサイ持ちは新才で住むこととなった。

私、東郷芽衣(とうごうめ)は15歳になるときにPSIに目覚めてそれから一年間一人暮らしをしている。

16になるときに一通のメールが届いた、その内容が新才での警備活動への参加を求めるものだった。

警備活動といっても私が配属するとこはPSIによる戦闘での対処をする部署だ。

PSIには簡単に人を殺めることができるものは多く存在する、噂ではあるけどそういう危険なPSI持ちは警備隊の戦闘特化チーム、私が勧誘されているPSIs(サイス)に一度声をかけられるらしい。

しかし強制ではないため断ることもできる。

PSI持ちは現在10代に多くいる、そのため高校生でサイスに入ることはあることだと聞いていた。

断ることもできたのだけれど私はこの力を役立たせたかった。

それに私に断る権利はない。

私は高校入学とともにサイスに参加することになった。

学校はあることにはあるが私は通信コースに通っている。

というかサイスに入る高校生は皆通信に通っている、初めは通学する学校に通う人もいたけど無理があるということがわかり皆通信になっていった。

朝のパトロールが終わろうとしたところ普段あまり使われてない路地から声が聞こえてきた。

この路地は普段人気がなくガラの悪い人たちがうろうろしている、この辺を知っている人はあまり使うことはないが、きっと土地勘がない人が利用したのだろう。

声がするほうに行くとそこにはガラの悪い男3人組が一人の少年を囲んでいる、ラフなパーカーを着ていて髪はショートカットで落ち着いた目をしている、年は多分近いだろう。

「ちょっと待ちなさい!!」

見過ごすわけもなく声を出した。

すると視線が集まる、男達は一瞬驚いた表情を見せたが私が女だとわかったとたん顔に笑みを浮かべた。

「お!

 これはこれは綺麗なお姉さんじゃないですかw」

「なになにw

 警察?w

 僕たち悪くないですよ~

 こいつがぶつかってきたんですよw」

朝から全く...

「悪いことわ言わねえ、おとなしく座ってな。

 後でたっぷりかわいがってあげるからw」

男は挑発するようにそう言ってきた。

「君!!

 大丈夫?けがはない?」

取り合えずあの男の子が心配だ、そう声をかけると男の子はちらっとこちらを見るとどうでもよさそうに顔を下げた。

多分大丈夫そうね、なら...

「おい、雑魚。

 いい加減めんどくせえぞ」

「んな!?」

何てこと言い出すのこの子!?

そんな挑発しちゃったら

「おいガキ...生意気言ってんじゃねえぞぉぉぉぉ!!!」

怒っちゃたじゃない!!!

それにPSIを発動して拳が燃えてる、こうなったら力ずくで。

「おっと、後でちゃんとお相手してあげるからおとなしくしててね」

そう言って残りの二人が私の前に立ちふさがった。

「後で後悔してもしらねえからな!!」

男が殴り掛かるのが見える。

ボキ

生々しい音とが聞こえてきた、それと同時に叫び声も。

だが叫んでいるのは拳を燃やしたほうの男だった。

「あぁぁぁぁ!!!!」

「お前は人にぶつかっておいて相手のせいにして、それについて責任を取れといったな。

 何言ってるかわかってる?」

いつの間にか立場は逆転していて私は混乱してしまった、私を足止めしようとした二人組も何が起こったのかわからずに唖然としている。

「お前みたいなやつらは本当に腹が立つ、消えてくれ」

そう言うとこんどは少年のほうの拳が燃えだした、しかもチンピラの3倍ぐらいは大きく燃えている。

「まっ待ってくれ、謝る、謝るから許してくれ!!!」

「そうやって許してたらいつお前らみたいのがいなくなるの?」

そう言って少年は拳を男めがけてふるおうとした。

まずい!!

「とまりなさい!!!!」

そう私が叫ぶとすべての動きが止まった。

これが私のPSI、周囲の人間に命令を与えることができるという能力。

単純な命令であれば声の聞こえた人間を操ることができる。

これでとりあえずは安心...

「なぜ止めるんですか?」

うそ、なんで動けるの!?

いつの間にか少年は私の前に立ち、私を見据えてこう言った。

「こいつらを見過ごすんですか? 

 こいつら今逃がしたらまた悪さをしますよ、そうなる前にしっかりと殺さないと」

「んなっ!?

 人殺しはだめよ!!

 何を言ってるの!!」

「でもこいつ、あきらかにおれを殺そうとしてましたよね? 

 人の痛みを知らないからこうゆうことをするんですよ、だから痛みをわからせてあげないと」

そう言って少年が男達のほうに向きなおった、止めないと!!

「やめなさ...]

「動かないでください。」

え?

少年がそう言い放つと私の体は動かなくなった。

これって私の能力だよね、なんで彼が使えるの?

さっき拳が燃えてたはず、PSIを二種類も持っているなんて聞いたことない。

考えてるうちに少年は再び男たちに向かっている。

止めないと、このままじゃ!!

「新太、何してるんだ?」

動けないから見えないが私の後ろから声が聞こえる。

その声は低く男性らしい声だ。

「待ち合わせの時間はとっくに過ぎてるぞって...」

声の主は喋るのをやめた、そして深いため息をした後、ずかずかと足音を立てながら少年の方に向かって行き怒鳴り声をあげた。

「まっったお前は!!!

 いい加減そのすぐ手を挙げるのはやめろ!!

 今度は何があった?この警官の人が襲われでもしたのか?」

「違うよウメ、こいつらがぶつかった来たんだよ。

 なのに謝れとか言い出すし、それにこいつは俺を殺そうとした、自分がそんな目にあったことないからそんなことができるんだよ、だから同じ目にあわさないと」

「...

とりあえずこいつらを解放してやれ、あとは任せろ」

「こいつらを止めてるのは俺じゃない、そこの...警察の人だよ」

するとウメと呼ばれたさっき現れた人は私に振り向いた、茶髪の彼は声から想像できるような大人びた顔だ。

「あのー、こいつが迷惑かけてすいません。

 こいつを納得させるためにも一度この止まってる人たちを解放してくれませんか?」

もちろん解放するのは構わないけど、私動けない...

少しすると思い出したかのように。

「あ、すいません警察の人。

 動いていいですよ」

「あっ」

彼の一言で動けるようになった、何が起きたのか全く分からない。

新太と呼ばれていた少年のPSIは炎を出すもののはず、それなのに私のPSIと同じような能力が使えてた、これは一体...

「おい、新太。

 なぜ今この人は動けなかったんだ」

「それはこの人のPSIだよ、俺をとめようとしたから邪魔にならないように」

「んな!?

 お前何てことしてんだよ!!!」

「でも邪魔しようとしたし」

「でもじゃない!!!」


「では、今日から一緒にこの第11で勤務することになる三竹新太(みたけあらた)君と梅野吉城(うめのよしき)さんだ」

「三竹新太です」

「初めまして梅野吉城です」

「ちなみに吉城さんはこの中で一番のお偉いさんなので、くれぐれも粗相のないように」

「まあそんなに気張らずにウメと呼んでください」

周りのがざわざわしている中、私はさっきの事を思い出していた。

動けなくした男達を解放した後、ウメはこういった。

「今度からこうゆうことしないって約束しろよ。

 今回俺が来たからお前らは助かったけど運がよかっただけだ、

 もしかしたら骨が折れるだけじゃすまなかったんだからな。」

この発言、つまり一度新太は何か大きなケガをさせたことがあるんじゃないか?

そうだとしたら何でこんなところに...

「芽衣、

 私たちはこれからパトロールに出るからここの案内してあげて」

「!?

 はい、わかりました理沙先輩」

「ん?どうした。

 さっきから浮かない顔して、体調悪いんならほかの子に頼むけど...」

「いえ、問題ありません。

 先輩はパトロール行ってきてください。」

「そう?

 無理はしちゃだめよ、ダメそうならほかの子に頼みなさいね」

そう言って先輩は去っていった。

名雪理沙(なゆきりさ)先輩、この第11の署長だ。

肩まで伸びた髪がきれいで、どことなくお姉さんのような感じがする。

私は理沙先輩に言われた通り案内をしようと彼らのもとに向かう。

すると新太とウメは3人に囲まれて話をしていた。

「うちの名前は葵美花(あおいみか)、美花って呼んでね。

 そんでこのおとなしそうなメガネが新谷健(しんたにけん)。」

「おい、おとなしそうなメガネってなんだ。」

「なによ、間違ったこと言った?w」

「うるさいぞお前ら!!すいませんうちの奴らが。

 自分が班のリーダーの中村彰人(なかむらあきと)です。」

「にぎやかなのはいいことですよw。

 新太、名前は覚えたか?」

「うん。」

3人は第11に勤務している仲間だ。

美花は小柄で活発な女の子だ、髪はショートで目がパッチリとしている。

健は身長170ぐらいで特に目立ったとこのない普通な人、美花にはメガネと呼ばれている。

ちなみに美花と健は私と同じ高校1年だ。

中村先輩は高校2年でがたいがよく、髪はベリーショートでいかにもスポーツマンといった感じだ。

何やら自己紹介をしているようだった、私も会話に交じっていろいろと聞くことにしよう。

「先ほどはどうも。

 私は東郷芽衣です、これからよろしくお願いします。」

「あぁ、君、大丈夫だったかい?

 新太が申し訳ないことしたね。

 ほら、ちゃんと謝っとけ。」

「...すいませんでした。」

「いえ、お気になさらず。」

なんだか固い感じになってしまった、気を取り直して質問をしようとしたとき美花がハイ!っと手を挙げた。

「そいえばさっき芽衣ちゃんはPSI見たんだよね?

 どんなだった?」

「いや、私が見たのは新太君のだけだけど...

 あれは一体どいうPSIなの、新太君?」

すると少し新太は顔を俯かせ表情を暗くし、新太は俯きながらこう言った。

「これは正義のための力。」

俯きながらだけど力ずよく言ったその言葉はどこか重さを感じた。

場の空気が重くなりなんだか喋りだしにくい中、ウメが優しく言った。

「まあ、俺が説明するよ。

 新太のPSIはよく解ってない、PSIに反応して新太のPSIは変化する。

 しかもそのPSIは相手のPSIより威力が大きい、それか有利なPSIになる。

 なんて言えばいいか...

後出しジャンケンみたいなものだと思ってるけど。」

「ん??

 つまりは?」

「おい美花、後出しジャンケンわかんないのか?」

「わかるわよ!!

 そんな誰でも知ってること偉そうに言うなメガネ!!」

「はぁー、

 じゃあわかるだろ、絶対勝てるってことだよ。」

この説明を聞いてなんとなく理解できた、私のPSIが通じなかったのも、チンピラよりもPSIの威力が大きかったのも。

だけど...

「信じられません、そんなでたらめなPSIがあるなんて。」

思わず驚きの声に出していた、するとニヤニヤしながら美花が言ってきた。

「何言っちゃてんの、芽衣ちゃんだって十分でたらめなPSIじゃん。」

「へぇー、

 一体どんなPSIなんだ?」

「私のPSIは...

 簡単な命令を出すことで周りの人間を操作することができます。」

「そいつはすごいな。」

「けれどいろんなデメリットもあります。

 まず一定量の音量が相手に聞こえていないと発動しません、それに対象を絞れないですし。」

「そうだな、芽衣のPSIだと遠距離からのサポートぐらいしか組めない。

 すべて巻き込んじまうのは強みでもあるけど...

 すまんな、お前だけ一人でやらせちまって。」

「いえ、いいんですよ中村先輩。」

サイスは基本チームを組んで活動する、なぜなら相手のPSIによっては全く歯が立たないこともあるからだ。

基本は3人一組でチームを組む、けれど私の場合仲間を巻き込んでしまうようなPSIだからチームを組めないのだ。

すると新太が。

「じゃあ俺と組めばいい。」

そう私を真っすぐに見て言った。

「俺ならPSIの効果を受ける心配はない。

 それにいくら強いと言っても...一人はいけない。」

「じゃあ...

 よろしく、新太君。」

気づくと私はそう言って手を出していた。



事件の始まりはパトロールの最中に起こった。

いつも朝にパトロールをしていたが、理沙先輩が昼から用事があるようでパトロールの時間を変わってくれないかと頼まれた。

断る理由もなく了解した私達は昼間のパトロールに出た。

「今日は何もないといいな。」

そう新太がぼやいた。

「意外ね、新太君は事件が起きてほしいと思ってると思ってた。」

「そんなことない、別に俺は人を傷つけたいとは思ってない。

 ただ、人を苦しめるようなやつを生かしておく必要はないと思ってる。」

新太と初めて会った時、彼は人を殺そうとした。

なんの躊躇もなく。

その後、新太の行動に変わりはなく、新太は何度も人を殺そうとした。

もちろん止めに入るのだがその度に新太は言うのだ。

なぜ止めるんですか?

こういうやつらはまた同じことをしますよ。

と。

「...

 新太君は何でそんなに人を許せないの?」

「それは...」

言葉が止まった、言いたくないことなのかもしれない。

やっぱり新太には何か特別な過去がある気がする。

だけどここで追い打ちをかけてまで質問する気はない、いずれ聞けたらいいと思った。

(おい、聞こえるかおまえら)

しばらく歩くと無線が入ってきた、声は中村先輩だった。

「はい、何かありましたか?」

(ついさっき銀行から緊急用の連絡があった、悪いが様子をみてきてくれ。)

「わかりました。」

そういうと無線は切れた、すると新太はすぐに銀行へに道をかけだした。

「んな!?

 勝手に一人で先走らないで!!」

私も後を追うように走りだした。

角を曲がるとすぐに銀行が見えた。

ガラス張りの銀行はシャッターが閉まって中が見ない。

銀行の前には見張りが3人ほどいた。

武装はしていない、となるとPSIは攻撃的なものだろう。

「新太君!

 少し止まって!」

そう叫ぶが新太は反応しない、それどころかスピードを上げる。

「!?

 警察がきたぞ!!

 中に知らせろ!!」

一人が気づき声を出した、しかし。

「遅い」

新太は一人を思いっきり蹴ると、すぐさま二人目を殴ってダウンさせた。

「くそが!!」

残りの一人が両手を構えて何かしようとした。

「動くな!!」

そうして動かなくなった一人を新太は思いっきり蹴飛ばした。

「大丈夫だったけど、ありがと。」

そう新太は礼を言った、まあ私が心配したのは蹴飛ばされた人なんだけど。

するとそこで倒れている男の無線から声が聞こえる。


「おい、外は大丈夫か。」

銀行内は静まり返っている、ガラス張りの銀行はシャッターが閉められていて外が見えない状況になっていた。

「...返事がない、何かあったか。」

「おい!!

 お前らなにか連絡したな?」

一人の男の右腕から無数の針が飛び出してきた。

「しょうがないね~

 一人ぐらい殴っとくか。」

隅っこに集められた人質の方へ男は歩み寄っていく。

と、その時。

パリーン!!!!

ガラスが割れるとともに男が一人入ってきた。

男は背が少し低く見たところまだ若そうだ、しかし服装が黒の戦闘服。

「もう来たのか、案外いい仕事するねぇ~

 でもあんまりへたなことすると...」

「黙れ」

すると男は急に喋れなくなった。

気が付くと目の前には男が接近していた、すぐさま右腕を男に向かって振り回したが。

「っ!!」

男の右ストレートが入りその場で針の男は倒れた。

すぐに離れたところで3人銃を構える音が聞こえる、すると今度は。

「武器を捨てなさい!!」

割れたガラスのとこから女の警官が出てきてそう言った。

すると男達の手の力が緩み武器を手放してしまう、その瞬間に男の警官は突っ込んでいく。

「止まりなさい!!」

女の警官の声が聞こえると男たちは身動きが取れなくなり、そのうちに男の警官に攻撃され倒れていった。


「そこに座りなさい。」

銀行強盗達を拘束するため一度動きを止める、新太と私は各自で仕事を始めた。

新太には人質の解放を、銀行強盗の拘束をさせたら何をするかわからない。

外に三人、中に四人の計七人での犯行か。

私は少し不信に思えた、自分のPSIにおぼれて一人で犯行を行う輩は何度か見てきた。

けれど今回は違う。

外の人たちが武装していなかったのは多分PSIに自信があったというよりは平然を装うためだったのかも。

中にいる人たちはしっかりとサブマシンガンに私たちが着ているような戦闘用のものを着ている。

全員の拘束を終えたとき。

「おっと、動かないでね。」

後ろから取り押さえられて口の中に何か入れられた。

鉄の味...

うそ

「いや~

 君がクイーンかな?

 どんな命令でも相手に聞かせてしまう、素晴らしいPSIだ。

 でも自分の力に酔ってはいけないよ。」

怖い、怖い、怖い。

何も考えれなくなった、体が震えるのがわかる。

体温が下がって急に寒く感じた。

「おやおや、怖くなっちゃた?

 体が震えて..」

「おい、何をやっている。」

新太の声が聞こえる。

前を見ると新太がこちらをにらんでいる。

「何をやっているかと聞いている、エイト。」

「これはこれは、久しいですねアラタ。

 クイーンを一人にしてはダメじゃないですか。」

新太は知り合いなのか?クイーンって私?

恐怖のせいか会話がまるで頭に入らない。

私は何もできない、こうして仲間に迷惑をかけ、あまつさえ命が惜しい、死にたくないと思っている。

私はいつも相手を縛り付け無抵抗にしてきた、だからわからなかった。

銃口を向けられる恐ろしさ、命がけで戦う恐ろしさを。

「今助けるぞ。」

新太はそう言うと右手の指で音を鳴らした。

すると私はいつの間にか新太にお姫様抱っこされていた。

「流石、といったとこですね。

 ではここは逃げるとしましょうか。」

「させるか。」

私を下すと新太はエイトに向かって行く、しかし。

「離れてはダメだと言ったでしょう。」

エイトが大きく手を挙げると数千の氷柱が頭上に現れた、これじゃあ避けようがない。

もう、ダメなのか...

「大丈夫だ。」

新太はいつの間にか私の傍に来てくれていた。

新太は私をそっと抱き寄せる。

「こ...ぜ....も...。」

何か言ったような気がするが聞こえなかった。

新太は私を離すと上を見上げた。

「氷か。」

そうつぶやいた瞬間、私達を囲むように炎が発生した。

そしてそれは私達の頭上に集まっていき大きなフェニックスとなった。

「焼き払え。」

フェニックスは氷柱に突っ込んでいった、すると一瞬で氷柱は水蒸気と化してしまった。

「すごい...。」

私は思わず声に出していた、すると新太がこっちを見て優しそうに笑った。


「それでは、失礼しました。」

銀行での一件を終えた後、理沙先輩に報告をしに行った。

署長室を後にすると。

「大丈夫だったかい芽衣ちゃん。」

新太が待っていたはずのところにはウメがいた。

「ウメさん...

 お久しぶりですね。

 あの、新太君は。」

「新太には自分の席に戻るように言っといた。

 ごめんね、全く顔出せなくて。」

ウメは新太と初めてここに来てから一ヶ月の間、一度も顔を見せることはなかった。

「いやー、こっちもやること多くてまいっちゃうよ。

 それで、新太とは上手くやってけそう?」

「はい、色々と大変ですが...」

「そうかそうかw

 まあ迷惑かけるだろうけどよろしく頼むよ。」

「はい、それでは...」

私がその場を去る、それと入れ違うようにウメは署長室に入っていった。


「じゃまするぞ。」

中心には机を挟んで向かい合うソファーがおいてあり、奥には机と椅子がある。

中に入ると中心にあるソファーに男が座っていた。

「久しぶりですね。」

「何で事件に犯人がここにいるのかな、理沙署長。」

奥にある机に肘を立てていやそうな顔で理沙は座っていた。

「知らないわよ、勝手に窓から入ってきたんだから。」

「いや~、これでも我慢したんですよ。

 クイーンが嘘の報告をしているときに飛び出してやろうかとおもってましたし。」

「嘘をつくような子じゃないわよあの子は。

 きっと新太君が何かしたんでしょう。」

「相変わらずいい性格してるよお前。

 で、どんな感じなんだ。」

「国は一刻も早く出て行って欲しいそうで、僕らにはいろんな援助をしてくれますよ。

 それにあっちでも祭りがありますからね、出て行ったあなたとアラタが見当違いなことをしていると知って連れて帰るように言われてきました。」

「そうか。

 で、お前はこれからどうする?」

「もちろんここに居座りますよ。

 戻ったら何されるか...

 それに僕らの主は今ここにいます。」

「主様に拳銃向けといて何言ってんだか。」

「それは僕なりの優しさですよ、これからはもっと大変な目に合うと思いますから。

 覚悟を決めてもらおうかと、アラタにもクイーンにもね。

 あ、でもアラタに書き換えられてるのか。

 そうなるともう一度やらなきゃいけないのかな?」

「新太はあれで色々わかってるやつだからそんな心配はないだろ。

 というかもう一回やってみろ、今度はその首飛ばすぞ。」

「怖いな~、相変わらず。」


私は銀行での一件をあまり覚えていない、男に拳銃を口に入れられた恐怖は覚えている。

でもそこから先の記憶がないのだ。

新太から聞いた話だとどうやら私を捉えた男は逃げたらしい。

あの男は私に恐怖を刻んでいった、私にはわからなかった襲われるという恐怖を。

署内のデスクに新太は座っていた、新太の隣が私の席なのでそこに座る。

皆パトロールに出ていて署内は静まり返っていた。

「あのさ、新太君。

 助けてくれてありがとう。

 それで何かお礼がしたいんだけど...」

新太のほうに目をやる、すると新太もこちらを見ていた。

「別にいい。

 それと新太でいい、君なんてつけなくて。」

「...わかった、新太。」

そう呼ぶと新太は優しい顔で笑った、あれ?

こんな笑顔前に見たような...

「そう言えば芽衣は怒らないな。」

「?

 私が怒るようなことことしたの新太は。」

「銀行に突っ込んだから。

 いつもなら先走るなって怒るだろ。」

「あぁ。

 私わかったんだよ、人に襲われるのって怖いんだなって。

 いつも指示を待ってから動いてた、でも私が待ってる間も襲われてる人は怖い思いをしてるんだよね。

 だからさ、いいのかなって。」

私が言い終わるとなぜか新太は驚いた顔をしていた。

何かあったのだろうか?

新太は椅子を正面に向けて顔を隠すように私と反対を向きながら言った。

「手が届く範囲ならすぐに、届かなくてもすぐに行く。」

その言葉は勢いだけですべてかたずけてしまいそうな人が言う言葉のように思えた。

でも今なら。

「素敵な言葉だね。」

人の気持ちを理解できている、そんな言葉に思えた。

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一方的正義(ワンサイドヒーロー) 有川ヨイチ @yoichi2360

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