僕の人生にはヒロインがいない

何となく何かが止まるってなんだよ怖いよ


 洞窟の奥に積もる真っ白な雪。

 私は金の髪をそこへ投げ出して大の字になると、自分で作ったお気に入りの歌を歌った。



 私が願う夢ひとつ。

 この雪がすべて消えた時。

 生まれ育った町へ行こう。

 懐かしい友と家族たち。

 みんな笑顔に輝いて。

 キラキラ一緒に舞い踊ろう。

 皆で一緒に雪になろう。




 ――はじまりは、貴族の息子からの求婚を断った事。

 平気で野鳥の羽根をむしる男を好きになれなかった、ただそれだけの事だった。


 男は随分と憤慨し、私の首に賞金を懸けた。

 そのせいで、見ず知らずの者が武器を振りかざして、私に襲い掛かってくるようになった。


 毎日、毎日。

 ろくに寝る間もなく、食事もとれず、命からがら逃げ続け。

 もはや逃げるに飽いて観念した私を助けてくれたのは、こともあろうに魔族の男だった。


 私を追い続けてきた冒険者たちの亡骸を踏みしめながら、魔族の男が二つの道を私に示す。

 一つは、この身を魔族へ堕とし、人々へ復讐する道。

 もう一つは、右目と引き換えに、降りかかる火の粉を払う左目を手に入れる道。


 考えるまでもない。

 私は後者を選び、人里離れた洞窟に潜り込んだ。


 ……見つめ合った相手の体を雪へと変える呪いの左目。

 そんなものを携えてまともに暮らすことなどできるはずはない。


 常に目を閉じ、椅子に深く腰掛けるだけの毎日。

 そしてようやくこの身が朽ち果てると思ったその日、吐き気をもよおす血の匂いをまき散らしながら、三人の男女が私の墓に踏み込んできた。


 ……戸惑いは無かった。ためらいもなかった。

 ただ左目を開いて彼らを見つめるだけで、その醜悪な身体はあっという間に美しい三つの雪山に姿を変えた。


 そして意識の外から、誰かの意志が勝手に体を動かした。

 気付いた時には、私はその雪を食らっていたのだ。

 口に含んだ雪は白いのに、酷く鉄のような味がして。

 私の中にいたはずの誰かが、粉々に砕け散った心地がした。



 ……永遠に融けることのない雪。食らえば当然その量は減っていく。

 だけど、決してそれが尽きることもない。


 だって、こうして飽くることなく勝手に届くのだから。

 私は飢えて死にたいだけなのに。

 あとからあとから届くのだから。



 ――あれから何年が経ったのだろう。

 最近になってようやく理解したことがある。


 魔族の男が示した二つの道。

 魔族として生きるか。

 人として死ぬか。


 気付けば、私は選んでいない方の道を歩かされていたということに……。



 私が願う夢ひとつ。

 この雪がすべて消えた時。

 生まれ育った町へ行こう。

 懐かしい友と家族たち。

 みんな笑顔に輝いて。

 キラキラ一緒に舞い踊ろう。

 皆で一緒に雪になろう。




 ††† ††† †††




 自ずから淡く光を放つ粉雪によって白と黒とにくっきりと塗り分けられた洞窟の天井からは、鋭利な岩が幾重にも突き出していた。

 その一つ一つがいずこから集めてこっそりと貯えられた水滴は、何か月にもわたってため込まれるとついには鋭利な先端から逃げ出し、地面に積もる白い雪に、青い穴を穿うがつ。


 ……そんな水滴の生まれいずるより散り果てるまでに一度として音を発することが無いのと同じよう。

 この戦いも、雪を踏みしめる音が響くばかりでおおよそ戦闘と呼べるものでは無かった。


 翡翠の大剣を振るう鎧の男も、その両脇を固める軽装の女も、自らの行いに戸惑い、その武器の運びは落葉すら崩すことも出来ぬほどに緩慢なものだった。


 そして対する敵は武器の一つも持つことなく、ただの歩みより遥かに遅くふらつき逃げ惑うだけ。


 剣戟も、呪文の詠唱もない命の取り合い。

 鼓動だけが耳に激痛を伴って響く戦いは、どれほどに言葉を選んでもそこに正義を見出すこともできない無慈悲な行為でしかなかった。


 白く結晶する吐息に続いて肺を冷たく満たす洞窟の冷気が、体を、心を、心臓を氷漬けにしてしまう。

 そんな青い世界に一つの風切りが唸りを上げると、それに続いた重い打突の衝撃と女性の悲鳴を捉えた耳が、粉々に割れた心地がした。



「がはっ! ……鏡越しに見た私に矢を当てる程の方がこの世にいようとは……。ああ、何ということでしょう。私は、ようやく死ぬことができるのですね……」



 魔族と呼ばれたその身には、証たる竜脈も見当たらない。

 だが磨かれた盾に映るぼやけた姿でしか彼女を見ることが出来ない者達に、その悲劇を知る術はなかった。


「冒険者たちよ……。欲深き悪魔達よ。どうか教えて欲しいのです。……私の身体は、まだ人間でしょうか? 私の心は、まだ人間なのでしょうか……?」


 根城である洞窟から出ることの無い十三魔剣、『ブラッディ―・スノウ』。

 その身を暖かく包み込む様に広がる赤が、彼女が人であることを物語っているというのに。

 盾に映ったその色は、容易に判断のつくものでは無かった。


「……そうですか。私は、皆様と異なる生き物になり果ててしまったのですね。ならば違う世界で夢を見ることにいたしましょう……。たった一つの夢を、故郷のアネモネの香りと共に……。どうぞ、その剣でいましめを解いてください。あの景色へ、私を連れて行ってください……」


 雪よりも白き肌の女は、両手を組んでその時を心待ちにする。

 それを盾越しに見とめた剣士は、翡翠を雪上へ取り落として頭を抱えてしまった。


「どうしたら……っ! 俺は! どうしたら!」


 涙を流して奥歯を噛み締める男の背に、微かな震えを滲ませながらも覚悟を持った太い声が届く。


「竜二ができぬなら、俺がやろう」


「待って! やっぱりダメよ!」


「でも、彼女の気持ちを考えたら、倒してあげたほうが優しさだと思います……」


 始まりは、意見のぶつかり合いだった。


 一人の『人間』を救いたい。

 多くの盟友を屠った『十三魔剣』を倒したい。


 だがその諍いに手が出て、足が出て、武器を握ると、パーティーは二つに分かれて苛烈な戦いを始めるに至ったのだ。


 小石ですら、岩肌を落とせばやがては巨大なうねりへと変貌を遂げる。

 怒涛となった濁流に理性は無く、救いも無く、すべてを飲み込むとそこに無感動に膝を下ろし、涙すらその身から溢れさせることは無い。


 ……盟友たちの亡骸を目の端に据えるだけで、胸が押しつぶされてしまう。

 天井を仰ぎ見た剣士は、濁流と化していたはずのその剣士は、しかし溢れる涙を止める術を知らなかった。


 彼に与えられた選択は、無限だったはずだ。

 だが、彼は一つの道しか残されていないと感じていた。


 友を屠った翡翠を捨てた剣士は、皆の姿を順に胸に焼き付けると、この怒涛の間に音もなく命を閉じていた雪の女王の姿を見つめた。



 …………幸せそうに、自分を見つめる青い瞳。



 この記憶を最後に、剣士は雪となってこの世界から消えた。




 ††† ††† †††




 十三魔剣、『ブラッディ―・スノウ』は死んだんだ。

 目的は果たした。

 全滅したとはいえバッドじゃない。これはビターエンド。


 死亡判定を受けたゲストの皆さんがよろよろと立ち上がったけど、未だに目に見えたリアクションは無い。


 手ごたえはある。

 でも不安で一杯。


 ……どう?


 固唾を飲んで見守る僕の目に映る四人の姿。

 皆さんは揃ってぼろぼろと涙を流しながら近付いて、そして抱きしめ合った。


「感動した……っ! 悲しいけど! クリアできなかったけど!」


「こんなシナリオ初めて。……ああ、どうするのが正解だったのかしら」


「私! マスター・タイガーのシナリオって初めて遊んだんですけど大興奮です! いつもこんな感じなんですか?」


「いつも面白いけど、これは僕の中では最高評価です。自分のリプレイ買わない派なんですけど、これは絶対買う。……しかし竜二よ。なぜに最後死んだ?」


「いや分かんねえ! 分かんねえけど、雪まみれにされていくうちにほんとに自分が雪になってくような気がしてヤバかった!」


「あたしは最後に彼女を見た気持ち、分かる気がしますよ。……では、魔剣が倒されて歓喜に湧くシータの村へ帰りましょうか」



 ……お客様がE3DRPGアンシラリー・リアル・ロールプレイングゲームに求めるもの。

 勝利の興奮。あるいは力及ばずという悔しさ。


 でも、それとはまったく異なる一石。

 これに皆さん揃って熱いため息。


 僕も、マスターとして一歩進んだ心地。

 ガッツポーズしそうになるのを堪えるのが精いっぱい。

 

 ぼっーっと余韻を噛み締めるゲストの皆さんが洞窟を後にして、スタッフさん達が撤収の準備を始めると、ゲスト以上に呆けた顔をした二人が寄って来た。


 君たちに本物のE3DRPGアンシラリー・リアル・ロールプレイングゲームを見せてあげようと思って連れてきたけど、なにそのリアクション。

 いつもは大騒ぎなくせに、今日は静かなのね。

 まあいい、放って置こう。


 僕はマネージャーさんにベンチコートを着せてもらっていた今作のボス役の元に向かって軽く手を上げた。


「シビリアさん、素敵なお芝居」


「きゃん! タイガーに褒められた! 嬉しいです~!」


 ちょ。


「大きい、声」


 スタッフさんもびっくりして洞窟の入り口をうかがってるけど、まだゲストさん達いらっしゃったらびっくりしちゃうよ。


「だいじょぶだいじょぶ! 当人だって分かんねーでしょこんな地声!」


「ま、そうね。……最後、涙流してた。あれ、いい」


「なり切っちゃっててね! でもなんで涙流したのかは自分でも分からん! だからそんなに褒められると照れるよタイガ~!」


 すごいな。

 生まれついての役者なんだな。


 エルフのシビリアさんはふわっとした髪で耳を隠せるからヒューマン役もこなせる引っ張りだこの名演者。

 縁あって一緒にお仕事させていただいたけど、台本チェックの時に僕の指示にいろいろ文句を言ってくれて。


 言い争っているうちにどんどん質が高まってきて。

 そして最後のぐっとくるセリフが生まれたんだ。


 僕の事を持ち上げてくれるけど、こちらの方が勉強になった。


「素敵なシナリオだったわ、タイガー! こんな役をいただけて大興奮! 絶対また一緒に仕事したい!」


「僕も。絶対またお声がけします」


 いつまでも手を振ってくれるシルビアさんをお疲れさまでしたと見送った後、呆気にとられたままの二人の肩を叩いて洞窟の入口へ向かう。


 すると、スタッフ、キャストの皆さんから盛大な拍手が湧きおこった。

 嬉しいです、そんなに喜んでいただいて。


 これからも、参加してよかったと思ってくださるような素敵な作品を作ろう。

 そう心に誓いながら、皆さんに深くお辞儀をして、洞窟を後にした。




 ††† ††† †††




 ――四季島しきしま高校は、一般公募の無い特殊都立高校。

 サード・ランドとの外交官を育成するために作られたこの学校へ通う生徒は皆、確固たる家柄の出だ。


 そんな皆の実家、つまり大企業、政党、警察組織、すべての家庭が総力を持ってサード・ランドに関しての情報漏洩を防ぎ、湧いた火種をもみ消している。


 なもんだから、僕みたいな平々凡々なサラリーマンの息子なんか珍しいわけで。

 いつもの四人組だって、ほんとは名家の御子息御令嬢。


 でもサード・ランドに興味のある連中ばっかりが集まってきているわけだから、RPGマスターなんてやってる僕とは仲良くしてくれている。



 リーダーたちとはいつも一緒にお昼を食べるんだけど、今日はシナリオ会議するからと言って離れてもらってる。

 いつもみたいにバカ騒ぎしてて楽しそう。


 そんな四人の姿を眺めていたら、不意に声をかけられた。

 えっと、何度か僕のダンジョンに来てくれてる隣のクラスの男子。

 その角刈りは覚えてるんだけど、名前、なんてったっけ?


「大河! 今度他のクラスの連中といっていいか? 六人パーティー!」


「…………今週はお休み。来週の木曜なら空いてる」


「おっけー! 予約頼むわ!」


 人数で仕掛けに影響あるから。金曜までにもう一回人数教えて。

 あと、名前教えて。


 とは思ってみたけど気付いてくれずに行っちゃった。


 基本的にしゃべるのが嫌いだから、こういう時不便。

 そもそも、人としゃべるのもそんなに得意じゃないし。


 そんなことを考えながらため息をついていたら、いつもの大声早口で金髪ツインテールを振りながらアーシェがくっ付けた席の向こうから話しかけてきた。


「今回のシナリオだと一晩で二回まわしは無理よね。ってことは既に満席ね!」


「…………席? 座って見てもらう? じゃ君だけ一人でコント」


「毒っ! ちゃんと演技させてよ! 昨日の見てから、早いとこお芝居したくてたまらないんだから!」


「ほんとに驚いたわ。あんなのと比べたら、ダンジョンのは学芸会みたい」


 僕の左に腰かけた銀髪ロングのジュエルがつぶやくと、アーシェもブンブンと首を振って激しく同意する。

 ……でも。


「そう? 僕は負けてないと思うけど」


 素直に言ったつもりなのに、二人は顔をしかめてお弁当に箸を伸ばした。



 クラスメイトでもある二人とシナリオ会議をしながらコンビニ弁当をぱくつく姿はちょっと変。

 異種族だから気にならないとは言え、君たち年上のお姉さん。

 しかもどちらも王族。


 だからさ、磯部揚げに目を真ん丸にさすなよ王族。


 ……それにしても、君らはうちの制服似合わないね。

 素材が綺麗すぎるから超違和感。コスプレなの?


 ギンガムチェックのスカート、同じ柄のリボン。

 濃緑に、赤い縁取りのブルゾン。真っ白ブラウス。


 とは言え、エロい方のバカはブラウスの前をはだけてへそまで見えてる。

 下着も丸見え。スカートも勝手にサイドにスリット入れたりしてもう。


「ねえジュエル。丸見え、良くない」


「なんでよ?」


「見えないギリギリのラインだから良いものなの」


「あら、坊やはとんだエロ猿なのね。でも、下はギリギリ見えないでしょ? 世界中の女子高生のスカートには魔法がかかっているの。ギリで見えないようにできているからそっちで楽しみなさい」


 初めて聞いた。

 まあ、確かにギリギリ見えてないからいいか。


「ファースト・ランドに来て嬉しかったことの一つがこれなの。ようやく聖典通りの下着を手に入れることが出来たわ」


「って言いながらスカートめくるなゲス女。……あと、聖典見ちゃダメ。年齢制限書いてあるでしょ」


「そんなの書いてないわよ。十八時以前に開いてはならないとは書いてあるけど」


 それ、時刻ちがう。

 まあ、確かに真昼間から見るようなものじゃないんだろうけど。



 ……大騒ぎバカのせいで頭が痛いと思ってたら、ゲス女のせいで胃まで痛くなるようになった。


 シナリオが全然思いつかない。

 君らといると非効率。


「…………役に立たない」


「あら坊や、言うじゃない」


「そうよ失礼ね! シナリオくらいちゃちゃっと作れるわよ!」


 めんどくさい。うるさい。じゃま。

 でも、君たちの意見も参考にしなきゃダメか。

 今できてるシナリオ、面白いんだけど何かが足りないんだよね。


「…………意見。何が足りない?」


「身長」


「性欲」


「……今夜ご馳走することになっていた高級中華はカップラーメンになりました」


 やっぱ一人で考えよう。

 だから騒ぐなうるさい方。


「うそです! 手伝うから! 頑張るから! だから高級中華に連れてって欲しいのよ、あれもう食べ飽きたから!」


 ……ん?


「食べ飽きた?」


「絶対いいアイデア言うから待ってて! えっと……、えっと……」


 …………食べ飽きたって言葉が、非常に気になる。


「アーシェ、ひょっとしてなんだけど。まさか君……」


「確かに。私もそろそろあれには飽きて来たかも」


「おい。……ちゃんとご飯作ってるの二人とも? …………そこにカンペは落ちてない。セリフは自分で決めて」


 顔を逸らしながら床を見つめてしまった金髪ツインテの切れ長と銀髪ストレートの褐色さんに問いたい。

 洗濯とか掃除とかもどんな有様なのか気になって来たんだけど平気?


「……り、料理する参考にしたいから! 食べさせてよ麻婆豆腐!」


「なるほど、それはいいアイデアね。坊や、私も春巻き食べたいわ」


 …………どっちもスーパーで売ってる。

 君らの高級の定義って。


「ダメ。シナリオが出来たら。…………足りないのは?」


「可愛いヒロイン」


「裸のヒロイン」


「うるさい。二人は一生ボスコンビ」


 ああん。ほんとにまるで進まない。

 特に君ね。ほっぺたパンパンにしながら机をバンバン叩くな。


「…………ほんとやめて。ブレスレットが外れちゃいそう」


「おっと! 危ない危ない! せっかくジュエルのお父さんがウソをついたら分かるように魔法を付与してくれたのに! ありがとね!」


 慌てて金の鎖を握りしめながらお礼を言ったアーシェににっこりとジュエルが微笑み返しているけど。


「どゆこと?」


「あたしの羽根、もともと生えてたら消えちゃうからウソをついたって自分で分かるけどさ、生えてない時だとウソついたかどうかわからないじゃない」


 なんで自分でウソついたことが分からないのさ。


「だからね、ウソをついたら時間が止まるようにしてくれたの!」


「…………言葉が足りな過ぎて分かんない。何の時間が止まるの?」


「知らない」


 バカに聞いたのが間違いでしたよすいませんでした。

 仕方がないからジュエルを見つめてみたら、いつもの妖艶な微笑で足を組み替えながら説明してくれた。


「あの腕輪、アーシェが嘘をつくと触れてる物が止まるようになってるの」


「触れて……。空気とかは?」


「厳密な物では無いの。何となく、何かが止まる」



 …………不穏。



 だいじょうぶなのそれ。

 世界の全てが止まったりしないのかな。


 ニコニコしながらブレスレットをいじるアーシェの笑顔が不安を煽る。

 でも、興味の方が上回るとか。僕も大概だな。


「…………試し。ウソついてみて」


「ウソなんかつかないわよ! 国に帰れなくなるじゃない!」


「アーシェ、ちゃんとご飯作ってるんだよね」


「う………………。ち、ちょっとだけならつく」



 ……止まった。

 面白いなこれ。



 再び解説お姉さんを見ると、一つ頷いて立ち上がって、アーシェにおもしろポーズをとらせ始めた。


「一分くらいで動き出すと思うけど。その間動かせるの。私の国に必須な上級魔法」


「すっごい面白いけど、なんでこんな魔法が君の国にあるのか気付いた瞬間ゲスって言葉しか出てこない」


 胃が痛い。

 ……あ、いまさら気付いた。


「お父様って、ダークエルフの王様にいつ会ったの?」


「随分前よ。私の引っ越しの時、やたら元気なおじいさんいたでしょ?」


「うん。冷蔵庫一人で持ち上げてた人…………、が、平気な顔してファースト・ランドに来ちゃメです」


 セキュリティー崩壊中。

 もうそろそろサード・ランドが世界にバレる日も近いね。


「ってるわよ? カップラーメンにお湯を入れるのも料理よね!? だからセーフよセーフ!」


「…………ああ、なるほどさっきの続きか」


 面倒な子。

 話の腰もバッキバキ。


「これ、ウソをついた時すぐ分かるって言ってたよね」


「うん! すぐ分かるようになってるんだ!」


 キラキラな笑顔で見つめられてもねえ。

 それ、意味無いんじゃないかな。



「…………良かったね、止まらなくて」


「うん!」


 ため息を打ち消すように鳴り響くチャイムの音。


 結局、シナリオは何にも進まないまま昼休みが終わっちゃった。

 これも全部、君らとしゃべってたせい。



 …………そう。

 君らとしゃべってると、楽しいせい。



 僕、無口だったはずなのに。

 一人でいるのが好きだったはずなのに。


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