ヘテロマン

草亀 拡紙

第286話 あなたのツバメ

〔回転しながら近づいてくる「ヘテロマン」の題字〕


今日もどこかで誰かの叫び

恋人たちが泣いている

ふたつの性があるかぎり

きらりかがやく異性愛

ヘテロマン ヘテロマン

ヘテロチョップは空を切り

ヘテロキックは水を掻く

(今だ セクシウム光線!)

ヘテロマン ヘテロマン

愛のファイター ヘテロマン


【ツバメ怪獣 ヒシカワンダ 登場】


「むふふ…ああ、女児アニメはいいなぁ」

この男、ジョージ゠アニー゠ミルー。無類の女児アニメ愛好家である!

「女児アニメはいいなあ。余計な男は出ないし、女の子同士の関係性が最高だぁ!」

「さて日曜朝だ! プリティアラの時間だぞ!」

ジョージがテレビをつける。

『白物家電プリティアラ!』

東Aアニメーション製作の人気女児アニメシリーズ、プリティアラだ。

「プリティアラといえば百合! 百合といえばプリティアラ! さあ今日も百合成分をいっぱい補給するぞぉ」

ところが、番組開始13分で事件は起きた。

『洗濯川さん、僕は君が好きなんだ』

『リュウジくん……私もあなたが好き!』

『洗濯川さん(はぁと)』

『ユウカって呼んで(はぁと)』

ジョージは愕然とした。

「そんなぁ! プリティアラは百合百合ユートピアじゃなきゃ駄目なんだ! 脚本家は誰だ!」

脚本家の裁量でそんなに展開が決まるとは思えないが、今のジョージには犯人が必要だった。

『脚本 有里百合子』

エンドクレジットに表示された脚本家の名前。

有里百合子といえば、プリティアラほか女児アニメの数々の名百合回を担当したとされる脚本家だ。

「そんな、ユーリンが男との恋愛、しかも告白即OKを書くなんて……」

ジョージは絶望のあまり床に突っ伏してうめいた。

「プリティアラが僕を裏切ったら、僕は何を頼りに生きていけばいいんだ……」


「ふっふふ、私がお前を助けてやろう」


「だっ、誰だ!」

無数の女児アニメグッズでいっぱいの部屋に不審な男の声がした。

「プリティアラから、いやこの世のすべての女児アニメから男女恋愛を消去してやる」

「ほ、本当か!?」

「ああ、本当だとも」

「いったいどうやって?」

「こうするのさ!」

突如、ジョージの体を怪光線が貫く!

「うわぁ!」

ジョージの体から飛び出た黒いモヤモヤ状の物体は、東Aアニメーションまで飛んでいくと巨大化し怪獣の姿となった!

「ユリヲーカエセー」


【ツバメ怪獣 ヒシカワンダ】


「キャー」「怪獣だー」「うわー」

東A社員の悲鳴が聞こえる。

「ユリヲーカエセー」

「怪獣はプリティアラの展開を変えるよう迫っているようです!」

「そんな! もう来週の放送分は納品してしまった! いまさら変更はできない!」

「ユリジャナイぷりてぃあらハ、イラナイ」

ヒシカワンダが東A社屋を破壊しようとしたそのとき!


「ヘテロバリアー!」


そこには東Aを守る愛の巨人、ヘテロマンの姿が!

「現れたなヘテロマン!」

「子供たちの夢を壊させはしないぞ、モホモホ団!」

ヒシカワンダは翼で切りつけるようにヘテロマンを攻撃する。

「女児アニメは百合でいいんだ! それを見て女の子は女の子と恋愛する。そうすれば女の子は汚い男たちに騙されることも傷つけられることもない!」

ヘテロテレパシーを通じてヘテロマンがジョージと会話する。

「それは違うぞジョージ君。女児アニメが百合のように見えるのは女の子同士ならいくら濃密に関係を描いても恋愛描写にならないという差別意識からだ。もうそんな時代は終わって、男女も同性間も同等に恋愛を描く時代になったんだ!」

「黙れヘテロマン! 孤独な女児アニオタクの気持ちなどわかるまい!」

ヒシカワンダがクチバシで高速突きを繰り出す。

しかしヘテロマンはクロスさせた腕を開いてこの攻撃を弾いた!

「ヘテロ肘うち!」

「ヘテロ回し蹴り!」

隙をさらしたヒシカワンダに容赦ない連続技が炸裂する。

「ぐっ!」

「いや私にも気持ちはわかる! 私はある女児アイドルアニメのファンだった。しかし『なぜか自然と、絶妙なタイミングで、結構頻繁に』会い続けても一向に恋愛に発展しない主人公とデザイナーの不自然な関係を見て気づいたのだ。無理に恋愛描写を避けることこそが不幸なのだと」

「それはもしかしてアイカt」

「ヘテロ足払い!」

ヒシカワンダは倒れて動きが鈍い。チャンスだ!

ヘテロマンが腕を回転させ、エネルギーを一点に集中させる。

「セクシウム光線!」

セクシウム光線とは! 未知の異次元物質セクシウムをビーム状にして発射するヘテロマンの必殺技である!

ドカーン!

ヒシカワンダは爆発四散!

「ジュワッ」

戦いが終わると、ヘテロマンはどこかへ飛び去っていった。


――翌週日曜朝。

『リュウジくんを守ってみせる! ウォッシュストリーム!』

「ありがとうヘテロマン。君のおかげで女児アニメにも異性愛が必要なことがわかったよ」

そこには、洗濯川ユウカと飯炊リュウジの恋を応援するジョージの姿があった。

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