第70話 蝶と涙と残酷と
サナギからかえった蝶は
濡れた羽をゆっくり広げ
降り注ぐ光の粒を
キラキラと跳ね返す
それを見ていた僕の手は
しっとり輝くその羽を
むしり取ってしまいたくて
そっと蝶へと伸ばされる
この手が触れてしまったら
たぶん痛みしか残らずに
あの七色の色彩は
ただ血の色に染められる
その血の色を見たいのに
どうしてか僕は哀しくて
触れかけていた右の手を
泣きながら強く引き留めた
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