②
兄の言葉に、今までつっかえていた何かが取れた。そうか、そういうことだったのか。今までの学校生活の中で、かぐやはずっと不思議に思っていたことがあった。
やたらと他人の評価を気にする者、無理をしてでも周りからよく見られようとする者。まるで舞台の上にいるかのような、不自然さが何重にも塗りたくられた光景。
自宅に帰った後、自由に振る舞う緋月を見ていて感じた差。なるほど、これが原因だったのか。
「まあ良い。これ以上、この学校では大した情報を得られないだろう。だから、かぐや。次は学校外での情報収集を頼む」
「学校外、ですか。羽藤さんは個別指導の学習塾に通っているそうですから、まずはそこを――」
「いや。塾も結局は同じだろう。こうなったら、彼女の本性が最も隠してあるだろう場所を探ってみるんだ」
かぐやの言葉を遮って、緋月が言った。真衣子の本性とは、一体何だろう。それも、隠してあるだなんて。
学校でも、塾でもない場所。一つしか、思い当たらない。
「あの姉も、そろそろ気が緩む頃だろう。こちらから突っつけば、簡単に中身が漏れ出すかもしれん」
「あの、それって……まさか、兄さん」
「さて、そろそろ時間だな。これ以上は怪しまれる。続きは今夜、家で聞こう」
じゃあ、後で。そう言う兄は、これ以上かぐやに質問を許すつもりは無いらしい。信頼されているのか、それとも意地悪をされているのか。
どちらにせよ、彼の言う通りにするしかない。かぐやは大人しく席を立ち、ドアへと向かう。しかし、不意にどうしても気になってしまうことがあった。
「……あの、兄さん。カウンセリングの部屋はランダムで決められていたようですが、私がこの部屋に割り振られるのは最初から決まっていたんですか?」
「いや? お前だけがこの部屋に来るように、なんて仕向けていないぞ。ただ、来てくれたら良いなー……と、思っていただけだ」
くすりと、口角を上げる緋月。その表情から察するに、これが偶然で運が良かっただなんて微塵も思っていないに違いない。
全ては計算通り。何も言わないまま、ひらひらと手を振る緋月に軽く頭を下げると、かぐやは部屋を後にした。
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