「……肩身が狭い、なんて思ったこともないくせに」

「まあな……くくっ、それにしても随分可愛らしい娘だ」


 晶子が部屋を出てから、数秒後。緋月が小さく嗤った。それは、今まで晶子に見せていたような代物ではなく、もっと厭らしく、傲慢な表情だ。

 凪は知っている。この表情こそが、成神緋月の持つ美貌を一番に引き立たせるのだと。そして、こんな風に嗤えるからこそ彼は厄介なのだ。


「あーあ。知りませんよ、どうなっても」

「心配無用だ、ちゃんと上の許可は忘れずに取る」

「そうじゃなくて、ですね!」

「せっかく実験への参加を申し出てくれたんだ。こちら全力を尽くそうではないか、全ては治療を待つ患者の為……そうだろう?」


 そう言って、緋月が凪を見上げる。思わず、息が詰まる。彼の瞳は苦手だ。

 まるで、全てを見透かしているようで。


「……自分は実験の資料を準備しますので、これで――」

「なあ、ナギ。シンデレラがお城の舞踏会へ向かう時に、何に乗って行ったかわかるか?」

「は?」


 唐突な問いかけに、意図せず素っ頓狂な声が出てしまう。凪は誤魔化すように、咳払いをしてから答える。


「んん、こほん……それって、馬車でしょう? 魔法使いが、かぼちゃを魔法で馬車にして――」

「では、そのかぼちゃにはどういう意味があるか知っているか?」

「意味?」

「例えば、鳩は平和の象徴であるというのは有名だろう? おとぎ話にも、そういう象徴が散りばめられていると言われている。では、かぼちゃは?」

「ええっと……」


 何だろう。暫く悩むが、どうにも答えは導き出せそうにない。凪が答えられずに居ると、緋月がにっこりと笑う。


「『愚か者』、という意味だ」

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